北朝鮮が、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)兵士らを民間人に偽装させ、労働者として中東に送り込んでいるという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が10日、匿名の現地消息筋の話として伝えた。

イスラエルと死闘

北朝鮮と、中東諸国の縁は深い。第4次中東戦争に際し、北朝鮮はエジプトとシリアに空軍を派遣。中東戦争でイスラエル軍と戦っており、その後も両国に様々な武器を販売してきた。

とくにシリアとの関係は密接で、金正恩第1書記とアサド大統領は頻繁にエールを交換し合っている。また、やや信ぴょう性の不確かな噂ではあるが、北朝鮮がシリア内戦に派兵し、アサド政権に加勢しているとの情報もある。

そうした政策の良し悪しは別として、北朝鮮が長らく中東各国と強い結びつきを持ってきたのは事実だ。北朝鮮の将兵は異国の地で命をかけて戦うことで、その礎を築いたと言える。

見世物のように虐殺

しかし、同じように兵士たちを中東に派遣するにしても、当時と現在とでは大きく意味合いが異なる。

RFAの消息筋によれば、「中東に進出している北朝鮮の建設会社であるナムガン建設とチョルヒョン建設を通じ、現地に派遣されてくる北朝鮮軍人の数が最近2〜3年の間に大幅に増えた」という。

たとえば、ナムガン建設はクウェートに800人、カタールに750人の労働者を派遣しているが、全員が工兵隊所属の20代の兵士たちだ。クウェートで働く北朝鮮労働者の数は合計3200人とされ、兵士の割合の大きさがわかる。

いったい北朝鮮当局はなぜ、兵士を中東に送るようになったか。

それは、軍の命令として兵士を派遣すれば賃金を別途払わずに済み、現地でも軍紀に従うため、統制が楽だからだ。つまりは兵士らをタダ働きさせ、給料を丸ごと吸い上げようというわけだ。

意外かもしれないが、最近の北朝鮮において、軍の地位は必ずしも高くない。

北朝鮮には、2種類の軍人がいる。軍の思想統制や人事を掌握する「政治軍人」と、戦闘指揮を担う「野戦軍人」である。そして、前者の代表格は正恩氏の最側近として知られる黄炳瑞(ファン・ビョンソ)総政治局長であり、後者に含まれるのが、まるで見世物のように虐殺された玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)前人民武力部長だ。

そう、このところ相次いで姿を消したのは、いずれも野戦軍人の出世頭たちなのである。こうした状況をざっくりと分析するならば、叩き上げの野戦軍人たちが元々は党官僚である政治軍人たちとの権力闘争に敗れ、出世の「肥し」にされているようにも見える。

激動の情勢下にあって、かつては国家の命運を支えた武力組織も、金正恩氏の独裁の下で収奪の対象に変わっているようだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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