北朝鮮メディアが、米大統領選で共和党の候補者となるドナルド・トランプ氏について言及を始めている。

朝鮮労働党機関紙・労働新聞は1日付の論評で、「南朝鮮(韓国)当局が米共和党大統領選挙候補トランプの朝鮮半島政策のスタンスに緊張し、不安を隠せずにいる。それは、トランプが自分の対外政策について語るたびに、米軍の南朝鮮駐屯問題、『安保ただ乗り』論を持ち出しているためである」と指摘。

北朝鮮の国家宣伝ウェブサイト・今日の朝鮮も5月31日、トランプ氏について、「暴言ばかりの変わり者で、無知な候補ではない。賢い政治家で先見の明がある大統領候補だ」とする専門家の見立てを紹介している。

民衆に「血の弾圧」

では、金正恩党委員長はトランプ大統領の誕生を望み、彼とならば対話が可能だと考えているのだろうか。そうではあるまい。トランプ氏の在韓・在日米軍の撤退論が巻き起こす混乱が、自分に有利に働くと考えているのだろう。

正恩氏は仮に米軍が日韓から撤退しても、両国の軍拡や核武装論が、北朝鮮に脅威を与えるとは思っていないはずだ。北朝鮮が核開発を強行し続けられるのは、金正恩氏が明確に「核武装した独裁者」を目指しているからであり、その陰で国民に多大な犠牲を強いながらも、世論の反発を受けて退陣させられる心配がゼロだからだ。

過去には民衆が権力に対抗した例もあるが、軍隊による「血の弾圧」でつぶされてしまった。

しかし、民主主義国家である日本や韓国で軍拡の主張、ましてや核武装論などが巻き起これば、強力な反対論が巻き起こり、政治が混乱に陥るのは必至だろう。

拷問して処刑

かつて中曽根康弘元首相は防衛庁長官在任時、日本の核武装の可能性について極秘裏に調べさせた。その結論は、「技術的には可能だが、国土の狭い日本には核実験場がないのでムリ」というものだったという。

それでも核開発を強行するようなら、巨大なデモを呼び起こし、政権はすぐに倒されてしまうだろう。

一方、日本が狭いというなら北朝鮮はもっと狭いが、言論の自由がないので、住民の反対運動など起きようもない。デモなどをすれば、政治犯収容所で拷問され処刑されてしまう。


ということはつまり、北朝鮮は核開発を行う以前に、独裁国家であることを「武器」としているである。そして、その問題と向き合うことなしに、日本と東アジアの安全保障を考えることはできないのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

    関連記事