とくに月曜日の抗議行動は、警察に無届けで行われたようだ。現場が混乱すれば、逮捕者が出る可能性もあった。集団脱北が「拉致」であろうがなかろうが、朝鮮総連がそれだけのリスクを冒してまで駐日韓国大使館に抗議を行うことに、何らかの効果や意義があるとは考えられない。
もしかしたら今回の抗議行動は、朝鮮総連の金正恩氏に対する忠誠心をはかるため、本国が指示して行わせたのではないか。そして、本国での立場が弱まりつつあった朝鮮総連の指導部が、これに飛びついたのではないか。
(参考記事:「金正日の料理人」に敗北した朝鮮総連)故金正日総書記は、朝鮮総連に対して「本国批判」を行うよう指示したことがあった。朝鮮総連に対する日本社会からの信頼を回復させ、日朝間のパイプ役としての役割を高めさせようと狙ってのことだった。
(参考記事:「祖国と距離を置き右傾化せよ」 金正日氏が総連に下していた幻の極秘司令)そんなことをしたのも、金正日時代にはまだ、北朝鮮と日本の間に、対話によって関係を改善する余地が残っていたからだろう。しかしその後、日本政府が国連で北朝鮮の凄惨な人権侵害の実態を告発するに及び、そのような余地はほとんど無くなっている。
(参考記事:赤ん坊は犬のエサに投げ込まれた…北朝鮮「人権侵害」の実態)果たして、対話をあきらめた金正恩氏は今後、朝鮮総連にどのような役割を担わせようとしているのだろうか。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。