集団脱北の真相については、筆者にもわからない部分があるので、ここでは論じないことにする。興味深いのは、この問題における朝鮮総連の動向である。
朝鮮総連は24日、南昇祐(ナム・スンウ)副議長名義で、「(韓国当局は)前代未聞の集団誘引拉致犯罪について謝罪し、共和国の女性たちを遅滞なく無条件、送り返さなければならない」とする談話を発表。26日には傘下団体である在日本朝鮮人人権協会の金東鶴(キム・ドンハク)副会長と在日本朝鮮民主女性同盟の梁玉出(リャン・オクチュル)副委員長が、同様の談話を発表した。
横田めぐみさんらの拉致問題を抱える日本の国民感情を考えた場合、朝鮮総連が北朝鮮の立場から「拉致」の2文字に言及するのには微妙なものがある。しかも、人権協会の金副会長と女性同盟の梁副委員長は朝鮮学校の権利擁護運動で先頭に立っているだけに、日本社会との摩擦は極力避けたいはずだ。
筆者は、対北朝鮮制裁の影響が朝鮮学校に及ぶようなことには反対だが、朝鮮総連の本国寄りの姿勢が極端さを増せば、日本の世論の中で厳しい声が強まる懸念もある。
それにもかかわらず、本来は自分たちとの関係の薄い集団脱北について韓国への非難を強めるのは、この事件を体制維持にとって重要な問題とみなす北朝鮮本国、あるいは金正恩党委員長から直接の指示を受けたからではないのか。