今月、朝鮮労働党第7回大会の取材で平壌を訪れた米ワシントン・ポスト紙の東京特派員アンナ・ファイフィールド記者が、変貌する北朝鮮の一面をレポートしている。

ファイフィールド記者は、外国人居住者から「ピョンハッタン(平壌とマンハッタンを合わせた造語)」と呼ばれる平壌市内の一角で、贅沢な消費生活を送るトンジュ(金主)と呼ばれる新興富裕層にフォーカスしている。

覚せい剤ダイエットに牛乳風呂

ピョンハッタンには、寿司レストランや24時間営業のコーヒーショップまである。そこで、整形手術したパッチリ二重のトンジュたちは、ZARAやエイチ・アンド・エムなどのファストファッションを着こなし、フィットネスジムで筋トレに励んだ後、カフェでカプチーノを楽しむ。

ファイフィールド氏のレポートは決して誇張ではない。トンジュたちの贅沢な生活については、本欄やデイリーNKジャパンでも頻繁に報じている。高級幹部やトンジュの妻たちのなかには、美容のためといいながら、自宅で牛乳風呂まで楽しむ女性たちもいる。どうやら裏コンテンツである韓流ドラマに出てきたものを真似たようだ。美を追求するあまり、「ダイエット目的」で覚せい剤を使用する富裕層の女性も急増しているという。

では、北朝鮮の「赤い資本家」であるトンジュたちは、どのようにして富裕層になったのか。

彼らは党や政府の高級幹部や、彼らと結託している民間人だ。主に中国から品物を取り寄せ、北朝鮮国内で売り払い、巨額の富を手にしている。最近では、不動産の売買も活発に行なっている。

人気アイテムはアディダスにナイキ

金正恩時代に入って、続々と建設されるレジャー施設なども、トンジュたちの懐にあふれる外貨を狙い撃ちにしたものだ。外貨が不足している北朝鮮当局は、なんとかして彼らからお金を吸い上げようとしている。

ファイフィールド氏のレポートによると、新興富裕層の若い男性の間で人気があるのは、アディダスとナイキだ。女性にはELLEの人気が高い。レギンスにタイトなトップスを合わせるのが流行だという。しかし、中国では簡単に手に入るこれらのアイテムも、北朝鮮での入手は容易ではない。そんなこともあり、中国に旅行に行くことが友人に知れ渡ると、買い物リストをどっさりと渡されるそうだ。

ちなみに、富裕層に限らず、北朝鮮国内で急速に広がる「草の根資本主義」においては、アパレル製品は重要なアイテムだ。

とりわけ、若者の間で人気が高いのが、チョンパジ(青ズボン)と呼ばれるジーパン。つまり、デニムだ。北朝鮮当局は、デニムを禁制品としてとりわけ目の敵にしており、国内に持ち込ませようとしない。では、どうするのか。筆者は、中朝国境で取材したある北朝鮮の行商人から次のような話を聞いたことがある。

「まずジーパンを履いて、その上からさらに別のズボンをはいて、こそっと持ち込まなければならない」

改めて強調するなら、こうした消費生活を楽しめるのは北朝鮮国民のごくごく一部だ。ファイフィールド氏の記事は、北朝鮮の意外な発展ぶりを伝えるだけでなく、その裏にあるの貧富の差を浮き彫りにしているとも言える。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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