北朝鮮の金正恩党委員長は最近、北朝鮮レストラン従業員集団脱北事件と関連し「韓国に報復せよ」との指示を出したと伝えられている。

先月発生した、中国浙江省寧波市の北朝鮮レストラン「柳京食堂」の支配人と従業員13人の集団脱北事件は、世界中に衝撃を与えた。36年ぶりとなる朝鮮労働党大会の開催を控えた時期だっただけに、北朝鮮のメンツは丸つぶれとなった。

当局は「韓国の仕業」だと主張、13人の家族をメディアに登場させるなどして、送還を要求しているが、実現の可能性はない。

今回の集団脱北事件については、「北朝鮮レストラン従業員に対する保衛指導員の監督不行き届きのせい」だとして、13人の家族や親戚が国家安全保衛部の幹部の元を訪れ、抗議する事態が発生している。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、保衛部は、事件の責任を問われることをおそれ、金正恩氏に「中国のブローカーと結託した南朝鮮情報機関の誘引拉致劇だ」との報告を上げた。

それに腹を立てた金正恩氏は保衛部に対し「君たちの本分は一体何かね」と叱責した上で「南朝鮮(韓国)当局に13人の即時送還を要求し、応じない場合には1000倍の復讐を加えろ」との指示を下した。

それに伴い、保衛部の15局(海外反探局)と偵察大隊(偵察総局)の若手の要員からなるいくつかのグループが組織された。彼らは、貿易関係者や親戚訪問者を装って中国に行き、脱北を支援する宣教師、人権活動家などの活動を探り、一網打尽にすることを企んでいるというのだ。

中朝国境地帯では、その活動の一環と思しき事件が発生している。

先月30日に起きた、中国朝鮮族の牧師の殺害事件がそれだ。この牧師は、国境を流れる鴨緑江のほとりに教会を構え、長年に渡って脱北者の支援を行っており、保衛部からの脅迫を受けていた。中国当局は捜査に乗り出したものの、犯人逮捕には至っていない。

別の対北朝鮮情報筋によると、現地では、北朝鮮の保衛部が中国南部のヤクザにカネを渡し、牧師を殺させたという噂が流れている。

緊張の高まりに伴い、韓国の外交省は12日、中朝国境地帯において北朝鮮による韓国人観光客への拉致、テロが行われるおそれがあるとして、同地域への訪問を自粛することを呼びかけた。

また16日には、旅行業者を対象にした懇談会を開き、ツアーの開催の自粛を呼びかけた。対象地域は、遼寧省の丹東市、吉林省の集安市、白山市、臨江市、長白朝鮮族自治県、安図県、和龍市、龍井市、図們市、琿春市だ。

一方、北朝鮮当局は国内において、集団脱北の「真相」を伝える政治講演会を開催しているものの、荒唐無稽な内容のせいで、住民からは総スカンを食らっている。

講演会では、集団脱北を「南朝鮮ヤクザ集団の拉致だ」「国情院は、経営に行き詰まった北朝鮮レストランの中国人社長を買収し、拉致を手助けさせた」といったことが語られ、「元帥様(金正恩氏)は『手段を問わず13人を取り戻して欲しい』と切実に語られた」などといった内容も伝えられたという。

しかし、それを聞いた人々は「子どもでもあるまいし、騙されて拉致されるなんてありえない話」「自分の意思で脱北したのだろう」「海外でいろんなものを見ればそうなるのは当たり前」と言った反応を示し、当局のプロパガンダなどハナから信用していないという。

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