国交正常化後、ソウル市地下鉄開発など巨額の日韓ビジネスを差配していた岸は、町井が利権に食い込むための最重要パートナーだった。
ほかにも前述した柳川や会津小鉄会の四代目会長だった高山登久太郎(姜外秀)が、韓国情報機関のエージェントとして日韓関係構築の黒子として動いていたという説もある。
つまりは民族差別によってオモテ社会からはじかれ、日本経済の「周辺」で蠢いていた在日ヤクザたちは、時代の変化の中でその「中心部」に呼び込まれたわけだ。
だが、苛烈だった民族差別もいつしか消え、若い世代の在日にそれを体験した人は少ない。4世以降は、生まれつきオモテ社会の住人として認められている。日本人と同様にスポーツや勉強に打ち込み、就職氷河期も経験してきた彼らに、先輩世代のヤクザのような「汚れ仕事」の腕を磨く余地は、多くはなかったのだ。
(取材・文/ジャーナリスト 李策)