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とはいえ、これほど急な要求には対応しきれない。そのせいか、北朝鮮の貿易会社がかき集めた肥料の中には、質の低いものも混じっており、受け取った農場員からは「こんなものは使えない」と不満の声が続出している。

韓国統計庁の統計によると、北朝鮮の肥料製造能力は年間224万9000トンで、年間の国内需要を満たしてもなお余りあるほどだが、2014年の実際の生産量は50万1000トンに過ぎない。電力や原料の不足で、肥料工場がフル稼働できないからだ。

それを裏付けるように、近年減少傾向にあった中国からの肥料輸入量が今年に入って急増している。米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、北朝鮮は今年2月、中国から肥料を7万9000トンも輸入した。これは昨年同月比の84倍に達し、2015年の輸入総量7万1000トンをわずか1ヶ月で超えた計算になる。

情報筋によると、肥料のみならず、稲やトウモロコシの苗床を覆うビニール幕も大量に不足しており、金正恩体制の無計画ぶりが、北朝鮮の穀物生産に暗い影を落としている。

企業体が肥料集めに奔走する一方で、北朝鮮の住民たちは、年初に「堆肥戦闘」と称される「人糞集め」のノルマを課せられる。住民たちは、ノルマを達成するため、新年早々人糞を求めてさまよい歩かなければならない。さらに、苦労して集めた人糞を盗もうとする「人糞泥棒」から守るため、酷寒の中で24時間警備しなければならない。

(参考記事: 北朝鮮のお正月が世界で最も「過酷」なワケ

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金正恩第1書記は、朝鮮労働党第7回大会を通じて、自らの権威を高めようとしているが、そのしわ寄せは企業だけでなく、庶民にも及んでいるのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記