韓国では、4月19日は歴史的に意義深い日だ。1960年3月に実施された大統領選挙での不正に反発した学生や市民が、一斉に蜂起。大規模なデモを展開して当時の李承晩(イ・スンマン)大統領を退陣に追い込んだのだ。その過程で、犠牲者も大勢出た。この出来事は「4・19民主革命」と呼ばれ、ソウル市江北区には国立の墓地があり、朴槿恵大統領も何度か参拝している。

韓国ではその後も、大規模な民主化要求デモが繰り返し起きており、そこでも多数の犠牲者が出ている。

北朝鮮は、ことあるごとにそれらの出来事に言及し、韓国政府に対する非難の材料に使っているのだが、それがとんだお門違いであるのは言うまでもない。北朝鮮国内にも、体制に対する反発は昔からあった。北朝鮮の情報統制があまりに厳しく、なかなか外部に知れなかっただけだ。

最近ではあまり語られることがなくなったが、北朝鮮でも何度かクーデター未遂が起きている。1992年には、軍のソ連留学組のエリートが中心となり、金日成・正日親子の暗殺を計画。1994年には朝鮮人民軍第6軍団が蜂起を計画したが、いずれも実行前に抑え込まれている。


これらの他に、「もしかしたら」と思わせる出来事もあった。 昨年10月初め、北朝鮮の葛麻(カルマ)飛行場で、金正恩氏の視察前日に大量の爆薬が見つかったと米政府系のラジオ・フリー・アジアが報じている。建物の天井裏から発見されたのは、TNT火薬20キロ。手榴弾なら130個分以上になり、通りがかった人の「爆殺」を狙うのに十分な量に思える。

さらに2004年春には、龍川駅の爆発事故が起きている。中国を訪問した金正日氏が特別列車での帰路上で、半径数百メートル以内にある8千棟の建物が吹き飛び、包括的核実験禁止条約機構の地震波データは小型原爆並みの衝撃を感知するほどの大爆発が起きたのだ。この出来事はいまもって、「暗殺計画」の可能性をはらむミステリーとして語られている。

それでも結局のところ、金日成氏に始まった「金王朝」は3代にわたり独裁権力を守り抜いてきたわけだが、だからといって彼らが無敵であるはずもない。

北朝鮮の体制は、大衆の散発的な反抗に対しては血の粛清で応じてきたが、いまだ大規模な抵抗運動には遭ったことがない。それだけ徹底的に、国民の心をがんじがらめにしてきたわけだが、それもそろそろ解けてきている。

金正恩氏の最近の暴走ぶりも、そのことに気が付いているが故のものであるのかもしれない。


高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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