13日の韓国総選挙で、与党セヌリ党は予想外の惨敗を喫した。朴槿恵政権は、投票日直前に、中国にある北朝鮮レストラン従業員13人の集団脱北や、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の対南工作機関・偵察総局幹部の脱北を公表して、選挙戦を有利に戦おうとしたが、見事に空振りに終わった。


任期があと1年10カ月を残した朴大統領のレームダック(死に体)化は、もはや避けられないようだ。さらに、世論からそれなりに支持されてきた北朝鮮に対する強硬姿勢の方向転換を余儀なくされる可能性もある。逆に言えば北朝鮮にとって有利な状況になる可能性も出てきた。

もしかすると、「朴槿恵氏惨敗」のニュースに溜飲を下げ、最も大喜びしているのは金正恩第一書記かもしれない。

昨年8月、朝鮮半島の非武装地帯(DMZ)で地雷が爆発したことに端を発した南北対立において、金正恩第一書記は朴大統領の思わぬ強硬姿勢に、ずっと劣勢に立たされていた。世論の後押しを背景に、強硬姿勢を貫いた朴大統領は、北朝鮮風の表現でいえば、「鼻持ちならぬ」存在だっただろう。そんな彼女が世論からノーを突きつけられたわけだから、金正恩氏が歓喜しないわけがない。


とりわけ、北朝鮮が、核実験とミサイル発射を強行して以降、米韓軍は「斬首作戦」の展開を公表しながら金正恩氏への圧力を強めていただけに、今回の総選挙の結果は、渡りに船かもしれない。


現時点で、朴大統領が任期期間中に、どのような対北姿勢を取るのか、それを正確に予想するのは難しい。失った求心力を高めるため、支持率を回復するため、より強硬姿勢を取るのか、それとも宥和姿勢に転じるのか。または、起死回生の逆転を狙って「南北首脳会談」という最強のカードを切ってくるのか。いずれにせよ、朴大統領の選択肢は多くない。

そして、朴大統領の対北朝鮮姿勢が定まらないうちに、北朝鮮が核実験やミサイル発射、36年ぶりの「朝鮮労働党第7次大会」を無事に終わらせれば、金正恩氏は、いきなり韓国に対して宥和姿勢、対話姿勢に転じることも考えられる。

もちろん、金正恩氏がいくら友好ムードを打ちだそうが、中身が急に変わるはずもない。韓国が対峙しなければなならい北朝鮮は世界有数の独裁国家であり、その頂点に立つのが金正恩氏だということを忘れてはならない。圧倒的な国力差があるから、有利に立てると思ったら大間違いなのだ。


高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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