韓国と北朝鮮の軍が対峙する非武装地帯(DMZ)で3日、韓国軍の監視所から機関銃2発が誤って北朝鮮側に打ち込まれていたことが、韓国国防省関係者の証言で明らかになった。機関銃の整備中の事故であり、韓国軍は即座にその旨を放送で伝えた。北朝鮮側は無反応だったというが、ひとまず交戦に至らず済んだわけだ。

だからと言って、「あ~良かった」の一言で済ませるべき話でもない。戦争は、こうした偶発的な出来事から始まってしまうことがあるし、急激な緊張激化を体験した軍隊は、有事への備えに前のめりになってしまうこともある。たとえば韓国軍の金正恩氏に対する「斬首作戦」も、そのひとつに数えられるかもしれない。

この作戦構想が持ち上がるきっかけは、昨年8月の朝鮮半島の軍事危機である。そしてこれ自体が、意図せざるエスカレーションから生まれた出来事だった。発端は、DMZ内で韓国軍の20代の下士官2人が地雷を踏み爆発。足を切断するなどの重傷を負った事件だった。

地雷が、北朝鮮側により仕掛けられたものであるのは明らかだった。北朝鮮の朝鮮人民軍は同年4月から、DMZで不審な動きを見せていた。軍事境界線の西部から東部までにわたり、5人~20人単位で近接偵察と何らかの作業を繰り返していたのだ。

DMZでは近年、朝鮮人民軍が徒歩で南側に入り、亡命するなどの出来事が相次いでいる。それにまったく気付かない韓国軍の警備の欠陥が指摘されていた一方、北朝鮮側の士気の緩みにも深刻なものがうかがえる。

ともかく、北朝鮮側は韓国軍にワナを仕掛けたというより、自軍兵士の脱走防止のために地雷を仕掛けていた可能性があるということだ。ところが、それに韓国軍兵士が引っかかってしまったことで、事態は急速に危機の様相を深めてしまう。

韓国軍は、北朝鮮の地雷が爆発し、兵士らの身体が吹き飛ばされる瞬間の動画を公開している。仲間が傷つけられる場面を見た将兵の中には、強い復讐心を抱く者も少なくないだろう。さらに、韓国軍は報復措置として、軍事境界線付近での拡声器による心理戦「対北朝鮮拡声器放送」を11年ぶりに再開。北朝鮮がこれに猛反発したことにより、報復の連鎖が戦争につながる可能性さえ生じた。

結局、北朝鮮の金正恩氏が韓国との「チキンレース」に敗れる形で事態は収束するが、この出来事はその後の情勢展開の伏線になった観もある。

先に述べた通り、韓国軍内で金正恩氏に対する「斬首作戦」の構想が持ち上がったのはこのときだった。これにはその後、米軍も合流。その動きは確実に、金正恩氏のメンタルを不安定にしている。


そんな環境の中、DMZでいきなりドンパチが起きるなど、想像するだけで背筋が寒くなるというものではないか。ましてや、北朝鮮は実質的に核武装しているのである。朝鮮半島で危機が発生すれば、それは必ず何らかの形で、日本に飛び火すると考えるべきなのだ。


高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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