北朝鮮の核実験と長距離弾道ミサイルの発射実験に対する国連の対北朝鮮制裁決議案が採択されて以後、中国の出方に注目が集まっている。

そんな中、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、自国に外貨を持ち込もうとした北朝鮮政府関係者が摘発される事件が起きたという

国連の対北朝鮮制裁決議「2270」では、多額の現金を北朝鮮に持ち込むことを規制している。今回の摘発は、決議採択後の初の事例だ。先日も伝えたが、中国政府は、北朝鮮船舶の入港禁止措置を取るなど、少なくとも現時点では本気で制裁に臨む姿勢を見せているようだ。

摘発事例を明かしたのは、中国遼寧省で中朝間の貿易業を営む中国人ビジネスマン。彼によると、この政府関係者は、3月4日に多額の人民元を所持したまま帰国しようとしたところ、丹東の税関当局が摘発、現金を押収したという。その押収額は2万中国人民元(約35万円)と伝えられている。

見逃せないのが、「摘発された人物が丹東一帯の工場で働く数百人の北朝鮮労働者を管理する行政幹部だった」(中国人ビジネスマン)こと。持ち込もうとした外貨は、北朝鮮労働者の給料をピンはねしたものである可能性が高い。

中国には多くの北朝鮮労働者が派遣されている。とりわけ北朝鮮レストランで働く美人ウェイトレスは、中国人だけでなく旅行で訪中した韓国人からの人気も高い。

北朝鮮レストランは、中国だけでなくタイ、マレーシア、ベトナム、カンボジア、ラオスでも展開しており、外貨稼ぎという点では「稼ぎ頭」でもある。とはいえ、彼女たちの労働条件は極めて劣悪で、国連からも「人権侵害にあたる」と指摘されている。


摘発された北朝鮮政府関係者は、帰国を諦めて、丹東の北朝鮮領事館や知人を通じて税関当局から現金を取り戻そうと奔走しているという。税関に出頭して正当で合法な持ち出しと認められれば返還されると規定されているが、今回押収された現金が返還されるかは不透明だ。

これまで、各国に駐在する北朝鮮の外交官は、合法非合法問わず様々なビジネスを行い、外貨規制を避けてその利益をハンドキャリーで自国に持ち運んできた。また、中国工商銀行の丹東支店は、昨年12月から北朝鮮人名義の口座への入金、送金を受け付けなくなっているため、現金を人の手で運ぶ必要がある。こうした点から、今回の摘発は外交官たちの外貨稼ぎにダメージを与えることになるだろう。

ただし、今回の摘発が、中国の「我が国は本気で制裁に取り組んでいる」というアリバイ作り、もしくは一過性の措置である可能性も捨てきれない。また、中国はこうした措置を通じて、北朝鮮の出方を慎重に見極めていると思われるが、一歩間違えれば、金正恩氏の思わぬ暴走を招きかねないことも警戒すべきだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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