北朝鮮の核実験と事実上の長距離弾道ミサイル発射に対する日本政府の独自制裁の一環として、許宗萬(ホ・ジョンマン)議長をはじめ在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の幹部ら22人が、訪朝時の再入国禁止の対象になったという。この人々は制裁が続く限り、北朝鮮に渡れば日本に戻ってくることができない。

朝鮮総連はしばらくの間、本国の重要行事や会議に主要幹部を送ることができなくなったわけだ。

とはいえ、それが北朝鮮への圧力として作用するかどうかは疑問だ。実際のところ北朝鮮は、かつてほど朝鮮総連を重視していない。何しろ許宗萬議長本人が2014年9月に8年ぶりに訪朝した際、金正恩第1書記と面会してもらえずガッカリしたとのエピソードが伝わっているほどだ。

朝鮮総連は往時に比べ、その力を大きく落としている。

法務省は去る11日、昨年末時点で日本で暮らす在留外国人の数を発表。従来、朝鮮半島出身者やその子孫らについて「韓国・朝鮮」とまとめてきた表記を改め、韓国籍は45万7772人、朝鮮籍が3万3939人と分けて発表した。

ここでいう朝鮮籍は、北朝鮮国籍とイコールではない。朝鮮籍とは、1945年の敗戦直後、まだ韓国も北朝鮮も存在していなかった時点で、日本政府が「朝鮮民族出身者」というほどの意味で付与した記号のようなものなのである。

その後、韓国建国後にも韓国籍に直さず、また日本国籍も取得しなかった人々が、現在も朝鮮籍を保持しているわけだ。だから、そういった人々は必ずしも北朝鮮を支持しているわけではないし、朝鮮総連のメンバーであるわけでもない。

だが、朝鮮籍を保持している人も、その大部分の郷里(ルーツ)は韓国にある。それでも敢えて韓国籍に直さないのは、かつての韓国軍事政権に対する反感や、あるいは北朝鮮に対するシンパシーなど、政治的な信条が理由となっているケースは少なくない。つまりざっくり言って、朝鮮籍保持者の数と朝鮮総連の組織力に連関があると見るのは間違いではないのだ。

これまで、法務省が朝鮮籍保持者の正確な人数を公開したのは1970年のデータまでだったのだが、その時点では実に29万人の朝鮮籍保持者がいた。単純に比較すると、現在の朝鮮総連の組織力は当時の12パーセント弱しかないことになる。

この数字は今後、さらに劇的に減る可能性が高い。理由は色々あるが、最大の影響を与えるのは北朝鮮の人権問題であると思う。なぜなら金正恩氏の核・ミサイル問題での暴走の裏には、間違いなく人権問題があるからだ。

かつて日本からの「帰国運動」で北朝鮮へ渡った在日朝鮮人が、彼の地で激しい差別と虐待に遭ってきたのは周知の事実だ。その中には、日本人配偶者も含まれている。

帰国運動で親族が北朝鮮に渡った在日の人々こそ、その事実を誰よりも知っている。しかし朝鮮総連の幹部たちは本国の犯罪を隠ぺいするために、そうした現実から目を背けてきた。

しかし、国連などの場で北朝鮮の人権侵害に対する追及が強まって行けば、いずれそうした歴史にも光が当てられる。そうなったとき、どれだけの人が朝鮮総連のコミュニティーにとどまる道を選択するだろうか。

朝鮮総連は金正恩氏に引きずられ、在日の人々を「破滅への暴走」の道連れにすべきではない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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