英国外務省は7月29日、「北朝鮮の医療施設と医師のリスト」という4ページの資料を公開。北朝鮮の医療施設には麻酔薬がない場合がしばしばあるため、北朝鮮での手術はできる限り避けることや、即時帰国することを勧告している。

実際、麻酔なしで手術を受けたことのある脱北者は、「メスを入れたお腹から伝わってくる痛みがどれだけひどいか。全身がぶるぶると震え、自分の血の匂いに吐き気がした」などと、その壮絶な体験について語っている。

北朝鮮はこれまで、「無償医療制度」を誇ってきた。ちょっとした風邪の診断からMRT、CTスキャン、出産、手術に至るまで全部無料で受けられると自画自賛しているが、実態はかなり違う。

そもそも、国家や地方機関が運営する病院に「クスリ」がない。クスリもないのに単なる紙くずにすぎない処方箋を出すだけだ。医師も医大や専門学校を出たての新人が多く、診断も治療も杜撰というのが現状だ。

そのため、どうしてもまともな治療を受けたい患者たちは、評判のいい医師がいる「民間診療所」へ行くという。

北朝鮮の医師たちは概して職業意識が高く、懸命に患者の治療にあたる。しかしあまりに待遇が悪く、医師としての使命も十分に果たせない劣悪な労働環境を嫌い、国営病院の幹部医師クラスでさえも、職場を辞めて自宅で診療所を開くことが多い。

こうした民間診療所の医師たちは経験豊富で腕もあり、各種医薬品も取り揃えている。入手困難な薬は、医師自らが作ることもある。

無論、そうして医薬品を揃えるためには相応の元手がかかるため、治療費は高額にならざるを得ない。

だが、国営病院に行けば無料かというとそういうわけでもない。たとえば帯状発疹の場合、通常の治療費13万ウォンに加えて、課長、病院の幹部、医師、看護師などに「賄賂」を渡さなければならないので、結局は高く付くのだ。

庶民たちは「国営病院でも結局は金を払わされる。どうせ払うなら丁寧に診てくれる開業医の方がいい」と、北朝鮮の誇る「無償治療」の現実を皮肉っているという。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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