北朝鮮の平壌や各地方の主要都市には、外貨レストラン、外貨ショップがある。北朝鮮駐在の外交官や外国人観光客をはじめ、国内のトンジュ(=金主:新興富裕層)が懐に貯めている外貨を集めるためだ。

さらに、一時帰国した海外駐在の幹部や貿易関係者が、国内在住の上役に接待したり、贈り物を買うためにも活用されている。

北朝鮮では、海外駐在の北朝鮮外交官や外国に出張した幹部が帰国すると、上級幹部から連絡が何度も来る。これは「接待しろ」「おごれ」という意味だ。

一本50万円以上の高級ワインも

接待では、一食一人あたり700ドルから1000ドル(約7万9000円から11万3000円)もの食事をおごらされるはめになる。

冷麺で有名な平壌「玉流館」の宴会ルームで、1本に3000ドルから5000ドル(約33万9000円から56万5000円)もするワインが注文されるケースもある。

こうした接待は一度きりではない。連日、幹部から入れ代わり立ち代わり連絡が来る。応じなければ不利益を被る可能性もあるので、接待する側は泣く泣く財布の紐を開かざるをえない。

2010年代初頭には、「一度帰国すると食事代だけで3万ドル(約339万円)も使わされる」という話が幹部の間で公然と交わされていた。

「挨拶はないのかね?」

また食事接待だけでなく、大成百貨店、楽園百貨店、光復百貨店などの高級外貨ショップで購入した外国製品を高級幹部に贈る習慣もある。

高級幹部は、一時帰国した海外駐在幹部に、イタリア製の靴、フランス製の香水、日本製のピアノ、電化製品、ヨーロッパ産の食品を露骨に要求する。接待や高級品プレゼントを要求する時の労働党幹部の決めセリフはこうだ。

「君が海外赴任するのに力になってやったのに、挨拶はないのかね?」

この裏には、「言うことを聞かなければ、二度と海外に行けなくしてやる」という意味、つまり脅迫が込められている。

プレゼントは、高級幹部のみならず、思想検閲や組織生活を担当する「組織指導部」の担当者にも贈らなければならない。

接待費用は労働党へ

このように、一時帰国した海外駐在員たちは、外貨ショップやレストランを引きずり回され、骨の髄までたかられる。こうした悪習は広い意味で、朝鮮労働党の外貨稼ぎの一環とも言える。

外貨ショップや高級レストランは、外貨稼ぎ機関である「朝鮮労働党39号室」傘下の対外奉仕総局や、観光総局、大成指導局、楽園指導局、牡丹指導局、先鋒指導局、武力部の強盛貿易などの特級貿易会社が独占。つまり、駐在員達の接待費は、金正恩第一書記の秘密資金金庫の役割をする労働党39号室へ流れこむ仕組みになっているわけだ。

海外で、北朝鮮の外交官たちが特権を乱用して、薬物、高級アルコールなどを違法取引したり、金、電子製品などを密輸して摘発されるケースが頻繁にあるが、幹部へ貢ぐための外貨資金を稼がなければならないからだ。

いわば、金正恩氏は、自らの統治資金のために、自国の顔である外交官たちに違法行為を強いていることになる。

幹部の要求におとなしく従わなかったり、逸脱行為を行った者には厳しい仕打ちが待っている。2010年には自宅に30万ドルを隠し持っていた鉄道省の組織秘書が銃殺刑に処せられた。表向きは、党の経済政策に損失と支障をきたしたとの理由だったが、金正恩氏に外貨を捧げず隠し持っていたことが許されないというのが、本当の理由だ。

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