朝鮮人民軍最高司令部は23日、「重大声明」を発表。金正恩第1書記ら最高首脳部をねらう米韓の「斬首作戦」に対する警戒感をあらわにし、作戦に投入される特殊部隊にわずかな動きでも見えれば、韓国大統領府(青瓦台)と米本土を先制攻撃すると警告した。

北朝鮮が「斬首作戦」に反応するのは今回が初めてではないが、今回の声明は米原潜やF-22Aステルス戦闘機、米第75レンジャー連帯、米海軍SEALsなどの動きにやたらと詳しく言及している。

確かに声明が言っているとおり、「過去の海外侵略戦争で悪名をとどろかした米帝侵略軍の陸軍、海軍、海兵隊、空軍のほとんどすべての特殊作戦武力と、いわゆる『ピンポイント打撃』に動員される侵略武力が一斉に南朝鮮に入ったことはかつてなかった」と言えるかもしれない。

北朝鮮と米韓が、ともに軍事的に身構えている構図だが、それも無理もない状況だ。 日本のマスコミ報道を見ていると、北朝鮮は孤立する一方のように思えるが、実際にはそれなりに外交的な「成果」を出しつつある。

中国の邱国洪駐韓大使は23日、韓国最大野党・共に民主党の金鍾仁(キム・ジョンイン)非常対策委員会代表との会談で、米国の「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の在韓米軍への配備について猛反発した。

中国は、THAADのレーダーが自国領内に及ぶのを警戒している。韓国はこれまで、最大の貿易相手国である中国を怒らせるまいと、THAAD配備の可能性について公式に議論することは控えていたのだが、さすがに北朝鮮の4回目の核実験と長距離弾道ミサイル発射を受けてしびれを切らした。

北朝鮮の行動により、米韓と中国(そしてロシア)の安保上の利害の不一致――つまりは北朝鮮を外交的に追い込むことの限界が浮き彫りになったのだ。

北朝鮮は、国際社会で「人権包囲網」を敷かれた段階で、すでに日米との国交正常化に絶望している。

つまり双方とも、「銃を抜く」しかない状況に至っていると言える。

ただ、北朝鮮はこれまで、勇ましいレトリックによる「威嚇」を散々繰り返してきたが、米軍が、特殊戦団をこれ見よがしに韓国へ送り込むのは異例だ。実際のところ、いざ有事となれば、米軍は特殊戦団だけでことを決しようとはしないはずだし、たとえ「斬首作戦」を実行するにしても、隠密裏にことを運ぶだろう。

つまり、今回の動きは金正恩氏への心理的圧迫と見るべきであり、それに対する敏感すぎる反応は、正恩氏本人の「メンタル」を物語っていると考えて間違いなかろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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