北朝鮮が1月6日に核実験を強行する前、米国に対し、平和協定を結ぶための交渉を提起。しかし、「非核化も議論すべき」とする米国の主張を北朝鮮が拒んだため、交渉には至らなかったという。

主要メディアは22日、このニュースを一斉に報じた。

しかし実際のところ、このニュースに目新しいところはほとんどない。北朝鮮はずっと前から米国に平和協定を求めるメッセージを発してきたからだ。昨年から今年にかけても、目立つものだけで5つの動きがあった。

◆2015年10月1日、李スヨン外相の国連演説「平和協定に応じるなら建設的対話」

◆2015年10月17日、北朝鮮外務省が声明を発表「応じられなければ核抑止力を強化」

◆2015年10月27日、朝鮮中央通信「朝米間の平和協定締結が急務」

◆2015年11月13日、北朝鮮外務省「核放棄を平和協定の前提化は言語道断」

◆2016年1月7日、民主朝鮮紙「米国がわれわれを核武装化に進ませた」

これらのうち前半のものは、10月に行われた米韓首脳会談を強く意識したものだ。同会談では北朝鮮の核・ミサイル問題と人権問題にしぼった初めての共同声明が出されたが、その内容は金正恩氏に対する「死刑宣告」とも言えるものだった。

こう見ると、金正恩氏は米韓首脳会談を受けて未来への「絶望」を深め、核とミサイルの暴走に拍車がかかったと見ることもできる。そして、「絶望」の最大の理由は人権問題にある。これは、決して私の勝手な思い込みではない。北朝鮮自身が、核実験後の声明などの中で、そうしたメッセージを折に触れて発しているのである。

ところが、日本の新聞を読んでいても、こうした解説にお目にかかることはほとんどない。なぜか。北朝鮮が発するメッセージの独特な表現や文体を小バカにするだけで、その内容の変遷を丹念に追おうとしないのだ。

そのせいで、年始には金正恩氏が「今年は南北対話に前向き」などとするトンチンカンな記事がネット上にあふれた。その直後、北朝鮮が言うところの「水爆」が炸裂し、東アジア安保の緊張がかつてないほど高まっているのは周知のとおりだ。

「記者は足で稼ぐもの」だとよく言われるが、こと北朝鮮問題に関しては、資料を丹念に読み込むことも同じくらい大事なのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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