これまで思うように商売ができなった露天商たちは、この処置を歓迎しているだろう。同時に、ほっと胸をなで下ろす当局側の人間もいるようだ。市場の取り締まりを行っていた保安員(警察官)たちである。彼らは日頃から乱暴な取り締まりを行うことから、商人たちの恨みを買って報復の暴行を受けたり、殺害されたりする事件が後を絶たないからだ。
(参考記事:妻子まで惨殺の悲劇も…北朝鮮で警察官への「報復」相次ぐ)良いことづくめの「市場緩和」だが、かといって人々の生活が飛躍的に向上した わけではない。とくに権力基盤を固める過程にある金正恩体制の下、商売人たち も銅像、道路などの建設工事、政治関連の行事、農村支援などの動員で、商売に 集中できないからだ。また、動員されても賃金が支払われないため、「賃金上昇 が消費増加に繋がる」という当たり前のことができていない。
金正恩氏が本気で人民生活の向上を考えているのなら、市場緩和だけでなく、 まずは当局主導の偶像化事業の縮小を行うべきだろう。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。