無料教育を建前にしている北朝鮮で、学業を放棄する学生が続出しているという。背景には、慢性的な経済難だけでなく北朝鮮独特の歪な学校運営があった。

北朝鮮の義務教育は12年間で、教育にかかる費用は制服代から教材費まで何から何まですべてタダ、というのが北朝鮮の自慢である。しかし、その内実は親がほぼ強制的に負担させられている。制服ひとつとっても、配給が止まったり無料から有料になったりと、制度がコロコロ変わっている。

ちなみに、金正恩第1書記は昨年2月、青少年のハートをつかむためか「金正恩プロデュース」の制服を支給すると大々的に宣伝したが、イマドキの北朝鮮学生からは、「ダサい。人間の価値が下がる」などと、無慈悲にこき下ろされる始末だ。

この時期、北朝鮮は酷寒に見舞われるため、「暖房費」が学校から要求される。それすら出す余裕がない家庭の子どもたちは、冬休み返上で山に登り、薪集めをしなければならない。クラス単位のノルマもあるが、達成できないと教師からは「いつ持ってくるんだ」と叱責を受ける。

このように、なにかと理由をつけて学校から運営費という名の金品を要求される。捻出できなければ、金持ちのクラスメート、教師から露骨にいじめられることもある。こうしたことに嫌気をさして自主退学、もしくは不登校になる子供たちが増えているのだ。

一方、一方、教師たちの待遇も悲惨で、家庭教師のアルバイト私塾を開いて生計を立てるケースも多い。そしてこのことが、公教育崩壊の危機にもつながっている。

こうした状況は90年代末の大飢饉「苦難の行軍」の頃から始まった。ある脱北者は「食糧難や、学校からの金品要求に応じられず、1クラス50人のうち35人が学校に出てこなくなった」と語るぐらいだ。学級崩壊どころではない。

一方、教育現場では希望を持たせる新しい風も吹きつつある。

教師のなり手が少なくなるなか、危機感を感じた教育関係者は、一般住民から選抜した教師たちを雇用しはじめた。彼らは正式な教職プログラムを受けていないため、理論的な教育はできない。しかし、自分たちの体験に基づいた現実的な授業をはじめたところ、これが親子供に好評だという。

北朝鮮の住民たちも、金日成一族の偶像化教育や色あせた社会主義理論よりも、実際に世の中を生きていくための実践教育を欲しているのだ。こうした住民目線の教育が浸透すれば、旧態依然とした教育内容や歪な学校運営も是正されていく可能性がある。

猛スピードで広がる草の根資本主義と同じく、北朝鮮「草の根教育改革」もどんどん進んでほしいものだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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