連載・日本の対北朝鮮情報力を検証する/自衛隊編(3)

2016年1月6日午後12時30分(平壌時間、正午)、北朝鮮は「初の水爆実験に成功」したと発表した。発表が事実であれば、北朝鮮は4度目の核実験を行い、米露中英仏の5カ国に続き6番目の水爆保有国になったことになる。

「北朝鮮が本当に水爆実験に成功したのか?」という疑問は、ここではいったん脇に置き、発表を受けて日本の情報機関が取った対応を追ってみよう。

当日の夕方、内閣情報官と内閣情報衛星センター所長が首相報告を行い、翌7日には、国家安全保障の要である国家安全保障局長、内閣情報官、統合幕僚長らが、やはり首相報告を行っている。

日本の衛星情報秘史

だが、“最強の情報機関”を率いる情報本部長の姿は、ここになかった。

核実験のような定点観測をメインとする情報収集では、電波傍受を「オモテ芸」とする情報本部は、内閣衛星情報センターの後塵を拝するのだろうか。

一般に日本の衛星情報活動の萌芽は、1998年の「テポドン・ショック」であったとされている。

日本列島上空を飛び越えた「テポドン1号」にショックを受けた政府は“独自の情報”を得るため、戦後長らく禁忌とされてきた偵察衛星保有を閣議決定。2001年には「情報収集衛星」という名の偵察衛星を運用する内閣衛星情報センターを、内調の一部局として発足させた。

だが、ある民間研究者によれば、その萌芽はさらに10年以上遡るという。

「日本で最初に人工衛星を情報収集に使ったのは、陸上自衛隊です。1969年に国会で『宇宙平和利用』が決議されたこともあり、人工衛星は長らく文部省(当時)の“領域”で、自衛隊は完全に排除されていました。

そのため『災害派遣に活用する』という方便を使い、国土地理院の地図作成業務を支援していた陸自中央地理隊が、フランスなどが開発した商用衛星『SPOT』や米国の『LANDSAT』が撮影した画像を購入することで、偵察衛星代わりにしていたんです。陸自はまた、1986年に民間で初めて開設された東海大学宇宙情報センターと共同で分析手法を研究していたはずです」

冷戦期になぜ…

1972年にアメリカ航空宇宙局(NASA)により打ち上げられLANDSATが民間に移管されたのが85年、SPOTの打ち上げが86年のことだ。研究者の言葉に従えば、陸自中央地理隊による“衛星情報活動”は、80年代半ばにはすでに始まっていたと見るべきだろう。

一方、この説明に対し違和感を覚える向きも少なくないはずだ。

1980年代の半ばには、東西冷戦はまだ終わっていなかった。列島が、ソ連と対峙する「不沈空母」にもなぞらえられた日本である。商用衛星の画像をこっそり購入しなくとも、同盟国である米国から、軍用の偵察衛星が撮影した画像を入手することもできたのではないか。

この疑問についてある自衛隊OBは、「昔も今も変わらない根本的な問題」であると指摘する。

対米従属の象徴

「東立川駐屯地の中央地理隊が、商用衛星の画像を使って『静態情報』をやっていたのは事実だ。ここには海空自衛隊の要員も派遣されていた。これが母体となって、現情報本部の画像・地理部に発展したんだ」

「なぜ日本が商用衛星の画像を買わなければならなかったのか? 米国が、衛星情報の独占にこだわっているからだ。電波情報の収集は、どの国にも可能な技術だ。しかし解像度数センチ、金正恩の顔すらも識別できる最高精度の偵察衛星を運用する技術と予算は、米軍しか持っていない。つまり米国は、衛星情報をカードに同盟国をコントロールする戦略を持っているわけだ」(自衛隊OB)

衛星情報で同盟国をコントロールするとは、例えばこういうことだ。

米国が日本に「近々、北朝鮮が弾道ミサイルを発射するようだ。発射台にミサイルが設置されている」と伝えてきたとしよう。だが、日本に独自の目――つまり偵察衛星がなければ、米国から与えられた情報を信じるほかなく、外交姿勢も協調せざるをえない……。

晴天なのになぜか雲が…

「いまガチブ(画像・地理部)が国産以外で使っているのは、『IKONOS』が撮った画像だ。偵察衛星メーカーのロッキード・マーチンが作った衛星で、解像度は10センチ程度。戦闘機や戦車の機種、並んだ歩兵の数まで分かる」

「だけど、これも米国が“シャッター・コントロール”しているため、日本が欲しい時間・場所の画像を必ず買えるとは限らない。ミサイル基地の画像が欲しい時、現地は晴天のはずなのに、基地の部分だけなぜか雲がかかったりしている。

軍事評論家は、『国産の情報収集衛星は解像度が低いから運用しても意味がない』とか言っているが、それは“シャッター・コントロール”の現状を知らないからだ。やはり、どんなにぼやけていたとしても、独自の目は大事なんだよ」(前出の自衛隊OB)

首相が求める「独自情報」

これが、北朝鮮の「水爆実験」発表の直後に、防衛省の情報本部長が官邸を訪問しなかった理由だろう。

国産衛星からの画像は防衛省にも提供されているが、それは運用者である内閣情報衛星センター所長が報告すれば足りる。

情報本部にはIKONOSの画像もあるが、それを官邸に持参する必要はない。首相報告で求められるのは、あくまで“独自の情報”なのだから。(つづく)

(取材・文/ジャーナリスト 三城隆)
【連載】対北情報戦の内幕

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