北朝鮮当局が、こうした学習を住民に強制するのは、体制の忠誠心を高めるためだが、 既に形骸化しつつある。多くの住民が、「論語読みの論語知らず」のように暗記し、身についた「傾向と対策」で解説を付け加え、そつなくこなすことだけが目的となっている。
さらに、政治講演の時間には、バレないように内職をしたり、こっそりおしゃべりし、居眠りをする。総和では、相互に批判をしなければならないが、批判する「ネタ」すらも、「ちょっと批判させてもらっていい?一杯おごるから」などと、酒やタバコで貸し借りする。つまり、「オレはお前のこういう点を批判するから、お前はアイツのああいう部分を批判することにしよう」などと、あらかじめ筋書きを決めておくのだ。
人糞集めで過酷な動員を強いられる住民は、当局の思想教育に面従腹背で対処する。これが、北朝鮮社会の現状だ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。