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北朝鮮が6日に行った4回目の核実験は、朝鮮半島の歴史でひとつのターニングポイントになるかも知れない。

そのように考えるのは、北朝鮮が「最強の核抑止力」である「正義の水爆」を遂に手にしたから、ではもちろんない。そうではなく、こうした事態に至ってようやく、北朝鮮を取り巻く問題の現実が浮き彫りになるかも知れないと考えるからだ。

韓米日中露の周辺主要国はこれまで、ともに北朝鮮と向き合っているように見えて、実はまったく違う方向を向いてきた。

米国にとって北朝鮮は、中東に比べればずっとコントロールの利いた地域だ。同盟国である韓国はいつも理性的だし、日本も米国に黙って単独行動をすることはない。北朝鮮が厄介な企みを持っているとしても、対処する時間は十分にあると思ってきたはずだ。

日本の政権の関心事は、拉致被害者を取り戻すことだけだ。それにしたって、絶対に何が何でもやり遂げようというほどのものでもない。

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拉致被害者を取り戻すには、どう考えても北朝鮮内部からの協力が必要なのに、それを得るための膨大なコストを賄うくらいなら、金正恩体制が急に正直になるという、ありそうもない変化に期待している。

ロシアにとって北朝鮮は、国際社会で影響力を確保しておくためのテコでしかない。ウクライナ紛争が起きて以降、その傾向はいっそう強まっており、むしろ米国をけん制するため北朝鮮への肩入れを強めているくらいだ。

中国は、北朝鮮へのエネルギー供給を止めることで、金正恩体制の命運を断つこともできる。しかしその代償は、国境地帯から東北地方一帯への混乱の波及であり、新たな「親米国家」と国境を接するリスクだ。そんなものをまったく引き受ける気のない彼らは、損得勘定の末に金正恩体制を放置してきた。

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そして韓国は、「リスクを甘受してでも問題打開のために行動すべき」とする積極的な統一志向と、「統一後の民族の運命を考えても繁栄を維持すべき」とする慎重な考え方の間で悩まざるを得ない。

北朝鮮の金正恩体制は、こうした周辺国の思惑のズレの間に、生存空間を確保してきたわけだ。

だが、こうした思惑のズレは、いつも不変というわけではない。広く国際情勢を俯瞰してみれば、世界の不確実性は10年前に比べ大きく増している。

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テロの猛威は止む気配を見せず、いずれ誰かが大量破壊兵器を使おうと試みるだろう。いま、北朝鮮とテロリストとの間に接点が見られるわけではない。しかし、北朝鮮と米中などとの対立が深まれば、欧米や中国を憎悪する勢力が、北朝鮮に接触を試みる可能性はある。

米中などにとって、放置できないリスクだ。

これまで、米中は北朝鮮問題を互いに押し付けあう傾向が見られた。しかしこれから徐々に、尖閣諸島や南沙諸島をめぐる中国と日米の軍事的な対立が変数として働く可能性がある。北朝鮮の暴走にいよいよ介入の必要が増せば、ライバルより先に自分が動こうとするはずだからだ。

そして、経済的に成熟しつつある韓国もまた、いつまでもその繁栄が約束されているわけではない。北の暴挙の前で「行動すべき時が近づいている」との声が上がれば、否定できる人は時とともに少なくなっていく。

つまり、北朝鮮を取り巻く問題の現実とは、これまで考えられてきた以上に、何かを決断するための時間的猶予が少ないということだ。

核実験を受け、韓国軍がただちに対北宣伝放送を再開し、米軍の戦略爆撃機が電撃的に朝鮮半島に展開したのは、当事者の誰もがそのことに気づいていることの証左と言えるかもしれない。

ちなみに時間的な猶予は、ほかの誰にも増して、金正恩氏にとって重要なものだった。若年の彼はその時間を有効に使い、独裁者としてより大きな力を蓄えるべきだったのだ。ところが、もはや誰にもそんな「ヒマ」はないのだということを、金正恩氏は自ら示してしまったのである。

金正恩氏は、八方ふさがりの状況にある。

国連で凄惨な人権侵害の実態が暴かれ、その責任者を国際刑事裁判所において「人道に対する罪」で裁くべきとする主張が公式化している以上、もはや金正恩氏と握手を交わすことのできる先進国首脳はほとんどいない。そのことは金正恩氏もわかっているはずで、だからこそ、「水爆実験の成功」を宣言した声明で「謀略的な『人権』騒動」への反発をあらわにしているのだ。

彼のうたう核と経済の併進路線は、国際社会から目を背けて国内に籠城し、一部の友好国とのみ付き合うことを宣言しているに等しい。

しかし、経済とはそんなに甘いものではない。世界のあらゆる国との交流にチャンスを求めずして、成長路線を見出すのは難しい。結局、体制維持のために核を優先する金正恩氏にとって経済は二の次であり、それは確実に、北朝鮮国内の「声なき反発」を強める。

人権侵害を止めず、核開発も止めない独裁者――これほど、「排除すべき名分」を人に与えやすい存在もない。

金正恩氏がそれを避けるためにできそうなことは、まずは人権侵害を清算し、その上で「核放棄」をカードに持ち、対話の場に出てくることくらいだった。しかし、そんな時間的な猶予はもうない。

朝鮮半島のありえそうな未来は、その成否は別としても、韓国主導の統一が遅いか早いかの一点に収れんされつつある。

(文/ジャーナリスト 李策)