韓国統一省によれば、2012年に金正恩政権が誕生して以降、韓国に入国する脱北者の数が半分に急減しているという。北朝鮮当局が中朝国境の監視と、越境者の摘発を強化していることが理由のようだ。

しかしその一方、韓国に入国する脱北者のうち、女性が占める割合は増え続けている。

国営企業などの職場で統制を受ける男性に比べ、市場で商う女性らは行動の自由度が比較的高く、脱北に向けて行動を起こしやすい。

だが、理由はそれだけではないだろう。男性本位の北朝鮮社会で、女性らは著しい不利益を被っている。特に、権力者たちはやりたい放題だ。

それでも、そもそも「人権」の概念すら教えられていない彼女らは、激しい事件侵害に遭っても告発する言葉すら持てずにきたという。


不利益を被っているのは、一般家庭でも同様である。夫は職場に出勤する義務があるが、給料はコメ1キロを買えるか買えないかぐらいの少額だ。とても生計を維持できないため、女性たちは市場で商いに励み、一家の大黒柱として薄給の夫と家族を養う。それにもかかわらず、夫の方は、大して働きもせず、家ではタバコをふかしながらゴロゴロする。酒を飲んではくだをまく――そんなケースが少なくないのだ。

しかし、少なくとも意識の面では、北朝鮮の女性らは変わりつつあるのではないかと思う。

市場での経験を積んだ女性らの中には、日用品や食べ物などを売る「オモテ」のビジネスだけでなく、韓流ドラマのDVDなど禁制品を流通させる「ウラ」の商売に進出している人が少なくない。「ウラ」の商売は、儲かるけれどもリスクも高い。下手をすれば銃殺である。それでも生きぬくために、あるいはより豊かな生活を望み、リスクを取る女性は絶えることがない。

そんな生活をしながら、海外の情報とも接している女性らは「やってられない」とばかりに新天地を求めているのではないか。

もちろん、すべての女性が脱北というハイリスクな行動に出られるわけではない。やはり期待したいのは、北朝鮮国内での変化だ。最近では、経済力をつけた妻を夫が恐れ、従順になる夫も多いと聞く。

時間はかかるだろうが、こうした大衆の意識変化こそが、北朝鮮の本質的な変化につながるのではないだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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