日本海側の沿岸や沖合で、漂流する木造船の発見が相次いでいる。その数は10月までで11隻に及び、今月2日にも新たに2隻が発見された。船内から発見された腐敗あるいは白骨化した遺体は、計30人を数える。

船の特徴などから言って、これらが北朝鮮のものであることはほぼ間違いない。

脱北を図って失敗した例もあるかもしれないが、多くは漁船と思われる。

北朝鮮はいま、食糧問題解決のため漁業に力を入れており、金正恩第1書記も精力的に水産部門の視察を続けている。つまりは国家の号令の下、性能の低い船でムリに出漁せざるを得ないことが、北朝鮮漁民の悲劇につながっているようなのだ。北朝鮮の漁業の現場は、まさに生死をかけた「最前線」であるわけだ。

それだけに、漁民たちの気風も自ずと荒っぽくなるのかもしれない。

最近、ロシアの領海では北朝鮮の漁船による違法操業が横行しているという。その上、取締りに駆け付けたロシア国境軍(国境警備隊)と衝突。漁民らが逆に、ロシアの兵士に集団暴行を働く「返り討ち」事件まで起きている。

ロシアの国境警備は、銃撃も辞さない強引さで知られており、過去には日本の漁船員が殺害される事件も起きている。

また、ロシア国境軍と言えば、上部組織は治安・諜報組織のロシア連邦保安庁――すなわち旧KGB(国家保安委員会)である。泣く子も黙るKGBに襲いかかる漁民と言うのも、北朝鮮以外には考えられないのではないか。

もっとも、北朝鮮の漁民や船員の気性の激しさは今に始まったことではない。

たとえば、アフリカ近海でソマリアの海賊に襲われた貨物船の乗組員らは、自動小銃やロケットランチャーで武装した相手に手製の武器で対抗し、撃退している。

商用の船ですらこうなのだから、軍などの武装船は言わずもがなだ。

中国漁船の違法操業を摘発する朝鮮人民軍の取締船は、本来の使命から逸脱し海賊船と化してしまっているようだ。摘発した中国人漁民を人質に、「身代金ビジネス」に精を出している彼らは、時には中国人に凄惨なリンチを加え殺害してしまうという。

まさに「無法海域」とも言うべき有様である。金正恩氏が水産部門の強化を避けべど、そこに合理的かつ効率的な政策があるようにはとうてい見えない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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