だが、1979年にはそんな朴正熙氏が暗殺されてしまう。また、その少し前に韓国出身の世界的な理論物理学者がアメリカで「悲運の死」を遂げていたことも重なり、「彼らは核兵器開発を阻止するためアメリカに殺されたのではないか」とのサスペンス・ストーリーが、韓国では根強く囁かれてきた。
結果的に、韓国は米国の圧力に屈して核兵器開発を放棄する。その際、アメリカがカードとして使ったのが、韓国への原発輸出だった。
当時、韓国は高度経済成長期への突入を控えており、電力はいくらあっても足りなかった。日本と同様、エネルギー需要のほとんどを輸入で賄っている韓国は、アメリカからの原発導入拡大を渇望していたのだ。
ちなみに、「核兵器開発は行いません」との誓約と引き換えに原発を輸出する取引は、現在も日・米・韓・中・露・仏の「原発先進国」と新興国の間で、盛んに行われている。しかし北朝鮮も含め、核武装の野心を実現させる上で「原子力の平和利用」をまず宣言しなかった国はない。
原発輸出という「商売」とセットになった核不拡散体制は、実に重大な矛盾をはらんできたのである。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。