民間の利益に配慮、不拡散の「矛盾」も露呈

アメリカの情報公開法を活用して、膨大な米公文書の中から朝鮮半島関連の秘密情報を発掘しているKISON(本部=ワシントンDC)という独立系研究機関が、韓国の核兵器開発に関するいくつかの文書をみつけ、公開している。

それらによると、アメリカ政府は1975年初めに、この問題について集中的な議論を行っており、その内容は、国務省のロバート・インガソル国務長官代理がフォード大統領の補佐官に送った1975年7月2日付の備忘録から読み取ることができる。

「米国の国益にダメージ」

この備忘録によれば、アメリカ政府は当時、韓国の核開発について次のような認識を持っていた。

「韓国政府はフランスとの間で、核兵器用プルトニウムを即時生産できる小規模のパイロット級再処理プラントを購入するための交渉を進めてきた。近い将来、潜在的な(核)拡散事例となる可能性が大きく、韓国の核兵器獲得はきわめて危険であり、米国の重要な国益にダメージを与え得るものだ。 (中略) 米国が核の傘を取り下げる場合、韓国が核の選択権を行使すると語った朴正熙大統領の最近の記者会見で、それはより明白になった。

もし、韓国が直接プルトニウムを抽出することになれば、究極的には核兵器を保有することになったり、短い期間内に核兵器を獲得できるものと推測できる。再処理およびプルトニウム備蓄を完ぺきに防止できてきておらず、特別な安全装置もないため、困難な偶発事態を防止するために、適切な保護手段が講じられなければならない」

ここで言われている「困難な偶発事態」とは、一義的には、韓国が核兵器開発を一気に進めてしまうことを意味していると考えられる。ただ、より深読みをするならば、韓国の核武装が「核ドミノ」となり、日本を含むアジアに拡散してしまうことを懸念したとも見ることができよう。

韓国の深刻なエネルギー事情

そうした事態を防ぐため、アメリカにはどのような選択肢があったのか。

アメリカはまず、韓国が核プラントの輸入を打診していたカナダ、フランスと接触して包囲網を築く。さらには韓国の原子力当局との折衝の中で、遠まわしな言い方ながら核燃料の再処理についてのけん制を繰り返した。

その過程でアメリカは、韓国に核開発を放棄させるのは可能であると、自信を深めたようだ。当時、韓国は高度経済成長期への突入を控えており、電力はいくらあっても足りなかった。日本と同様、エネルギー需要のほとんどを輸入で賄っている韓国は、アメリカからの原発導入拡大を渇望していたのである。

この時期、韓国では初の商用原子炉となる古里原発1号機の稼動を1978年に控えていたが、続いて同2号機を建設するため、アメリカの輸出入銀行からの1億3200万ドルの借款と、信用保証用の基金として1億1700万ドルの融通をアメリカ政府に求めていた。

備忘録では、アメリカは「韓国国内での再処理計画に対する憂慮を表明し、その計画が引き続き進展する場合、アメリカによる核物質サポート、とくに古里原発2号機のための輸出入銀行の借款提供計画が、水泡に帰す可能性があることを指摘する」ことができると述べられている。

「二者択一」を迫る

さらに、同年7月24日、スナイダー駐韓大使がキッシンジャー国務長官に送った秘密公電には、次のような記述が見られる。

「韓国が直面した最も重要な問題は、輸入エネルギー資源への依存度が大きいということである。今後10年間で、この依存度はさらに深刻化する見込みだ。エネルギー問題と関連し、アメリカは韓国のこの問題を解決できる技術と財源を持っている。米韓の新しい関係増進により、韓国がこの財源を活用できるように私たちは主導権を行使できる。

韓国は最近になって、原子炉開発を通じてエネルギー多様化のための計画を樹立した一方、同時に核兵器開発のための野望を果たすべく、そのための計画も保持している。このふたつの問題と関連し、韓国が核兵器保有の野望を明確にあきらめるという条件の下で、私たちは平和的な核エネルギー利用を支援する意思を、明確化すべきだと考えている」

アメリカは韓国に対し、核武装を取るか、エネルギー支援を取るかの二者択一を迫ったわけだ。

「製品販売を危険にさらす」

しかし実のところ、こうした方針は徹頭徹尾、核不拡散の原則にのみ基づいて決められたものではなかった。秘密公電には、次のような記述がある。

「(韓国のルール違反を理由に原発輸出を取り消す)この方法はまた、輸出入銀行の借款提供と、これにともなうウェスティングハウス社の製品販売を危険にさらすことになる。 議会の反応も考慮するべきであり、カナダとフランス、韓国の期待に背く可能性がある」

つまり、ビッグプロジェクトである原発輸出が、ウェスティングハウスという民間企業を巻き込んで動き出していたことで、その利害関係者が議会をはじめ多岐にわたり、ホワイトハウスといえどもその一存で取り消すことはできなくなっていたのだ。

しかし、北朝鮮の事例によく表れているように、核武装の野心を実現させる上で、「原子力の平和利用」をまず宣言しなかった国はない。いかに厳格な原子力協定を結び、いかに核活動に対する監視を強めたとしても、「核武装は行わない」として原発を手にした国が、その約束を翻さない保証などどこにもないのだ。

新興国への原発輸出が活発に行われている今、実に示唆的な事例と言える。

核不拡散体制はこの時期からすでに、こうした大きな矛盾を抱え込んできたのだ。そのことを最もよく知っているのは、実はアメリカ自身かもしれない。(おわり)

(取材・文/ジャーナリスト 李策)

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