日本は、韓国と北朝鮮の諜報(スパイ)戦の舞台である。最近はあまり話題に上らなくなったが、1980年代まではニュースになることも少なくなかった。他ならぬ日本人拉致も、その過程で起きたことだ。

そして現在も、日本を舞台にした南北のスパイ戦は続いている。

たとえば2005年10月と2009年7月、2010年11月、ある韓国人男性が日本を訪れた。男性は1993年に極秘訪朝して金日成主席と接見。その極秘司令に従って韓国の政界・軍・社会団体等の関係者を抱き込み、北朝鮮の指示の下に動く地下党「旺載山」(ワンジェサン)を結成した大物工作員である。

そして、男性が来日した目的は、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の現役幹部と、東京・多摩地区で秘密接触することだった。

こうした事実があることから、韓国の情報・捜査当局は、朝鮮総連の動向を警戒している。また、韓国のスパイ防止法と言える「国家保安法」によって、朝鮮総連は反国家団体として指定されており、そのメンバーと一般の韓国国民が接触することは固く禁じられている。

しかしハッキリ言って、国家保安法のこうした規定はもはや、旧時代の遺物になりつつある。

韓国の大田地裁は2日、40代の韓国人S氏に対し、日本留学中に朝鮮総連の幹部と親しくなった罪で懲役3年の実刑判決を言い渡した。

この裁判に関する情報が少ないのであまり断定的なことは言えないのだが、報道に接したときの筆者の率直な感想は「そりゃ、やり過ぎじゃないの!?」というものだった。

朝鮮総連の幹部と言えば昔こそバリバリの「革命家」だったが、今ではすっかり「ノンポリ化」が進んでおり、普通の韓国人や日本人を洗脳することなど到底ムリだ。普段は北朝鮮のことを「祖国だ」と言っていても、実際にその「祖国」に帰って暮らすことなど想像すらできないほど資本主義文化に染まり抜いている。

それ以前に、北朝鮮のあの独特のレトリックに共鳴できるのは、きわめて特殊な感性を持った人だけだ。

そんな1000人に1人も出てこないような「特殊事例」を警戒し、国家保安法をしゃくし定規に運用しているとしたらナンセンスと言うほかない。そもそも、朝鮮総連の関係者と親しくなっただけで罪になるというなら、パチンコ業者らが通い詰める韓国クラブのホステスやママたちを一網打尽にしなければならない。

ちなみに、朝鮮総連を警戒しているのは日本の公安当局も同様で、組織内にスパイを獲得しようと四苦八苦している。しかしそこにコストをかけ過ぎるのは、むしろ日本の安全保障にとってマイナスと言わざるを得ない。

それよりは、かつてのように「日本にこの人あり」と海外でも評価の高かった凄腕スパイを飼殺しにしたりせず、そうした人材育成により多くの予算を振り向けるべきだ。

韓国当局もいいかげん、新しい状況に見合った情報活動を構築すべきだ。朴槿恵政権が進める歴史教科書の国定化は内外から大きな批判を呼んでいるが、北朝鮮は嬉々としてそこに便乗しようとしている。

政治家の時代錯誤の方が、国の安全保障にとってはよっぽど危険なのだ。

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