北朝鮮から海外に派遣された駐在員らが姿を消す事件が続き、各国の北朝鮮大使館に緊張が走っているという。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、今年9月にドイツと中国に駐在していた北朝鮮人の家族が相次いで姿を消した。彼らが外交官なのか貿易関係者なのかは詳らかではないが、誘拐などの情報がないところを見ると、韓国や第三国への亡命を準備している可能性が高い。

北朝鮮ではこのところ、官僚などエリートの脱北が相次いでいる。韓国の国家情報院によると、北朝鮮から脱出して韓国入りしたエリートは一昨年8人、昨年18人、今年は10月までに20人と増加傾向にあり、中には相当な高官も含まれている。

そして彼らの中には多額の資産――たとえばベンツ数十台分の外貨を韓国に持ち込み、セレブ・ライフを満喫している面々が少なくないというから驚く。

そんなカネがどこから出てくるのかと言えば、国家から密命を帯びて蓄えた「金正恩秘密資金」を、まんまと持ち逃げしているのだ。

金一族や特権層が使うぜいたく品を購入したり、兵器開発にも充てられたりする秘密資金作りは、「忠誠の外貨稼ぎ運動」の名の下に1970年代に始まった。その手段のほとんどは、金塊の密輸や麻薬取引、犯罪資金のロンダリング(洗浄)請負など、非合法なものばかりだ。

最近ではキューバ産高級葉巻を密輸しようとした外交官が摘発されたほか、変わったところでは「サイの角」の密輸やバイアグラの無許可販売などというのもある。

もちろん、故郷では秀才として将来を嘱望されて育ち、晴れて外交官となったエリートたちが、嬉々としてこんな犯罪に手を染めているわけではない。羞恥心でプライドがズタズタになりながらも、国で暮らす家族のため、または「飢えに苦しむ国民を救うためにも自分が逃げ出すわけにはいかない」という気概から、国からの理不尽な指示に耐えている面々も少なくないのだ。

しかし、それにも限界に達したのだろう。金正恩時代になり、かつてを上回るペースで(しかもより残忍な手法で)幹部の虐殺が行われるようになって、何かがふっ切れたように逃げ出すエリートが増えているのだ。

その際に秘密資金を持ち逃げし、それで豪遊するというのは、原資が犯罪収益である可能性を考えれば釈然としないものを感じないではない。

しかしまあ、金一族や特権層に浪費され、それが国民に対する人権侵害の継続につながるよりは、いくぶんマシではあるかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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