「平壌から中国の丹東に向かう列車内で、瀋陽駐在の北朝鮮貿易関係者の家族と出会った。仕事でしばらく平壌に帰っていたとのことだった。身なりもおしゃれで、言葉も北朝鮮の訛りが少なく、韓国人と見間違うほどだった」
「小学校低学年の娘はずっと押し黙っていたが、出国検査を終えて列車が国境の橋に差し掛かった時、急に『パパ、中国に帰ってきたよ!』と大はしゃぎし始めた。言葉は朝鮮語ではなく、中国語だった。その姿を見て、両親もニコニコしていた」
「子どもはインターナショナルスクールに通っているとのことだった。中国の自由で豊かな生活に慣れた子どもには、北朝鮮での数週間はさぞかし息の詰まるものだったのだろう」
「北朝鮮という体制が年端の行かない子どもにも暗い影を落としていることを目の当たりにして、複雑な心境になった。あの家族も今頃脱北しているかもしれない」
上級幹部は、常に粛清される環境に置かれ、下級幹部は隙あらば脱北しようとする。金正恩氏の恐怖政治が北朝鮮権力層の空洞化をもたらそうとしている。