アフガンで「大騒ぎ」の末に招いた惨劇

先月31日、台湾の台北で性的少数者の祭典、台北プライドパレードが開催された。プライドパレードとしてはアジア最大を誇るこのパレードには8万人が参加した。

来年1月に行われる台湾総統選挙に立候補を表明している野党民進党の蔡英文氏は、台北プライドパレードに際して「婚姻の平等(Marriage Equality)を支持する」とのメッセージを発表。「婚姻の平等」とは性的指向を問わず誰でも誰とでも結婚できる、つまり同性婚を支持することを意味する。蔡氏は次期総統の最有力候補であるだけあり、台湾がアジア初の同性婚を認める国になることが予想されている。

日本でも、東京都渋谷区の同性パートナーシップ制度や世田谷区の同性パートナーシップ要綱など、同性婚に準じる「シビル・ユニオン」と呼ばれる制度の導入が始まった。横浜市や宝塚市でも同様の制度の導入について議論が始まっており、この流れは全国に広がると期待されている。

仏教徒にも強引な布教

一方、韓国ではバックラッシュとも言える現象が続いている。6月に行われたソウル・クィア・パレードに際しては、保守プロテスタントグループによるヘイトスピーチを伴った反対活動が国内外から非難を浴びたが、常軌を逸した攻撃は今も続いている。

その攻撃対象は、性的少数者だけにとどまらない。

事件が起きたのは2013年2月。ソウル市内で、ある仏教の僧侶がソウル市内のドーナツ店に入ろうとしたところ、いきなり店員でもない女性がドアの前に立ちはだかり言い放った。

「この店はプロテスタントだから入るな!」

僧侶はこの顛末をSNSで暴露し、投稿はあっという間に広がった。ネット上では保守プロテスタントに対する怒りが広がり、店側は「我々は関係ない、他人がやったことだ」と釈明に追われた。

入店拒否とは違うが、仏教徒や無宗教者に対する保守プロテスタント信者の強引な布教活動が問題になることは韓国では日常茶飯事だ。

地下鉄に乗っていた仏教の女性僧侶に、保守プロテスタント信者が近づき、「このままでは地獄に行く、神を信じなさい、今日は僧侶4人に布教を行った、(他宗教を信じていることが)かわいそうだからやっただけだ。誰が坊主なんかに教えを説くものか」などとしつこく布教する様子が動画に撮られ、ネットで公開されて炎上した。

イスラム教の存在を許さない

米国では、性的少数者の入店や注文を拒否して逮捕されたり、社会的に非難される店員や店主が後を絶たないが、韓国でも同様の事件が起きている。

宗教をめぐり、暴言や時には暴力さえ伴うこうした事例が相次いでいるため、「差別禁止法」を早期に制定し、宗教差別を禁止しようとの声が韓国でも高まっている。しかし、保守プロテスタントは反省するどころか、法律の制定に猛反対する。

韓国の宗教メディア、クリスチャン・トゥデイによると、韓国キリスト教指導者協議会主催で「同性愛及びイスラム教反対と正しい歴史教科書編纂のための1千万クリスチャン署名大会」なる催しがソウル市内のホテルで開かれた。この場には会長のシン・シンムク牧師をはじめ、複数の国内プロテスタントグループの代表など250人が参加した。

13に及ぶ署名の項目から、以下に一部を抜粋した。

◯同性愛に徹底して反対する
◯イスラム教に明確に反対する
◯宗教差別禁止法に反対する
◯南北統一のために付き1万ウォン以上の統一献金に積極的に参加する
◯アンチキリスト阻止法を国会に請願する
◯キリスト党運動に積極的に参加する

日本でも布教活動

ここに彼らが掲げる「理念」、そして「統一された大韓民国は、キリスト教政党によって支配される、他宗教と性的少数者とイスラム教徒の存在を許さない国」という国家観が、よく表れている。

宗教差別禁止法とは、韓国政府が制定を推進している「差別禁止法」の中の、信仰による差別を禁止する条項のことだが、保守プロテスタントは「(他の)宗教に対する健全な批判ができなくなる」として、猛烈に反対している。

つまりは、他宗教や性的少数者を激しく非難する形の布教を、公然と行えなくなることを警戒しているのだ。

「異なること」への不寛容は、もはや韓国保守プロテスタントの特徴とも言っていいだろう。

アフガンで強烈な反韓感情

それが大きな事件へと発展したことがある。韓国の保守プロテスタントは、海外での布教活動に非常に熱心だ。日本でも夏休みを中心に布教活動に励む彼らの姿を見かけることがある。彼らの活動範囲は東アジアに留まらない。

2006年8月、保守プロテスタント系の布教グループ「インターコープ」のグループが、韓国政府や上部団体の制止を振りきってアフガニスタンのカンダハルに布教活動に出かけた。現地では、「2006年アフガニスタン平和フェスティバル」なるイベントの開催も企画していた。

一部はアフガニスタン当局によって入国を拒否されたものの、1500人の信者が入国した。彼らが現地で攻撃的な布教活動を行った結果、現地の人々から反感を買い、イスラム教の聖職者500人が「布教活動を行っている韓国人を国外追放せよ」とデモを行うほどだった。

保守プロテスタントとは何ら関係ない現地在住の韓国の民間人やNGO関係者は、身の危険を感じて対策本部を設置、反韓感情の高まりで180人が一時的に避難を余儀なくされるなど、各方面に大迷惑をかけた。

ところが布教グループの代表は「問題の責任はアフガニスタン、韓国両政府にある」と自らの責任を全く認めない態度を取ったため、韓国国内でも猛烈な非難の声が上がった。

こうした独善的な態度と狂信的な布教活動が、取り返しのつかない悲劇を生む。

タリバンにより拉致・殺害

2007年7月、保守プロテスタント系の教会の牧師と信者23人が、布教活動を行うためにアフガニスタンのカンダハルに向かう途中で、タリバンに拉致された。タリバンは「韓国軍をすべて撤収させ、収監されているタリバンのメンバーを全員釈放しなければ人質を殺害する」と脅迫した。

韓国政府は「軍の撤退」を含むいくつかの要求を飲んだことによって、ほぼ全員が42日後に解放されたが、その前に人質2人が殺害されてしまった。

当初、韓国の世論は彼らに同情的だったが、彼らがモスクで「タンバルキ」を行ったり、コーランを冒涜するなど、他宗教、文化を尊重するどころか「悪魔扱い」したことが明かされるや、激しい非難がとって代わった。ネットには「どうして生きて帰ってきたの?」などと彼らを非難する文章が溢れた。

「タンバルキ」とは、「土踏み」を意味する韓国のシャーマニズムに由来する儀式で、その地を踏みしめながら「異教徒の館は崩れろ!」「悪魔は出て行け!」などと叫ぶもので、韓国のキリスト教でもこの儀式を行う教団は「異端」「カルト」扱いされる。

こうした現象は、性的少数者の権利回復が進み、多くの移住者が入国し、多様化しつつある韓国社会の現状に対するバックラッシュとも言えよう。

「反省」は少数派

近年、海外から韓国に移り住む人の多くは中国朝鮮族だが、他の国から移住したイスラム教徒もいる。彼らが韓国国籍を取得し、子どもを産むことによって、韓国人のイスラム教徒も徐々に増えつつある。多様化する社会は、韓国をキリスト教という「唯一無二の価値」で染め上げようとしている保守プロテスタントからすれば「障害」以外の何物でもないのだろう。

保守プロテスタント団体の中には、北朝鮮の人権問題の解決と同時に、性的少数者やイスラム教徒への差別を叫ぶ団体もある。偏狭なナショナリストである彼らにとって、北朝鮮の人々は「包摂すべき我が民族」であるのに対し、性的少数者やイスラム教徒は「聖なるキリスト教の国、大韓民国」から消え去るべき存在であるべきだ。

こうした「不寛容」に対しては、韓国のプロテスタント内部からも反省の声が上がっている。

体制寄りだった保守プロテスタントと違い、民主化運動に積極的に協力していた香隣教会は、ソウル・クィア・パレードに参加するなど、リベラルな姿勢を示している。しかし、残念なことに彼らは少数派で、改革や自省を求める声は、多くの保守プロテスタントには届かない現実がある。

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