北朝鮮の通貨レートには2種類ある。公式レートと闇レート(実質レート)だ。

今年、平壌を訪れた外国人観光客のAさんによると、外国人客がよく利用する羊角島国際ホテルでは500ミリリットルの炭酸水に60ウォンの値札が付けられており、レジで支払ったのは中国人民元で3.5元。おおよそ「1ドル=105ウォン」の公式レートで計算されたことになる。

一方、Aさんがホテルを一人で抜けだして、現地の北朝鮮住民もつかう市中のお店で菓子パンを買おうとしたところ、店員から4000ウォンと言われた。北朝鮮ウォンがなかったので中国人民元5元札で支払うと、2500ウォンのお釣りが支払われた。闇レート、つまり闇レートで5元は約6500ウォンだ。10月の闇レートは「1ドル=8,600ウォン」。公式レートの実に80倍以上になる。

Aさんのケースでわかるように、外国人に対してホテルや観光地の売店では公式レートが適用され、一般商店で買い物をした場合は闇レートが適用される。ただし一般商店での買い物は、案内員(ガイド)にバレないようにしなければならない。

国営百貨店にシャープの液晶テレビ

ところが、最近平壌を訪れたロイター通信の記者は、ガイド同行の元に闇レートでの買い物を許されたと同社が報じている。

ロイター通信のジェームズ・ピアソン記者が訪れたのは平壌の普通江(ポトンガン)百貨店。金正日政権時代に作られた高級百貨店で主に幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)が利用している。

店内には化粧品、雑貨から最新家電に至るまで様々な商品が販売されており、値段はすべて、米ドルと北朝鮮ウォンの闇レート(1ドル=約8,000ウォン)で表記されている。

例えば、日本製のシャープのテレビは1126万北朝鮮ウォン/1340ドル(日本円で約16万3000円)、エアコンは378万ウォン/450ドル(日本円で約5万5000円)、ポンプは252万北朝鮮ウォン/300ドル(日本円で約3万6000円)、牛肉1キロは7万6000北朝鮮ウォン/8.6ドル(日本円で約1040円)、北朝鮮製のLED電球は4万2000ウォン/5ドル(日本円で約607円)だ。

4万2000ウォンのLED電球は、公式レートに換算すると400ドルというというんでもない値段だが、実際には5ドルで売られている。つまり国営商店ですら闇レートが使われているのだ。

個人経営の店ならともかく、国営の高級百貨店で闇レートが使われていることは、北朝鮮当局が闇レートという認めたくない「不都合な真実」を受け入れつつある証拠といえるだろう。ただでさえ北朝鮮ウォンでの支払いは不便が伴う。

普通江百貨店では、米ドル、人民元、デビットカードにあたる「ナレカード」での支払いが可能だ。お釣りは外貨または北朝鮮ウォンで支払われる。

ジャームズ記者は、多くの人が米ドルで買い物としていると伝えた。北朝鮮ウォンでの支払いが可能かどうかには触れていないが、支払いはかなり面倒なことになる。

平壌市民も敬遠する北朝鮮ウォン

例えば、北朝鮮ウォンの最高額紙幣が5000ウォン札だ。LED電球1つなら5000ウォン札8枚と1000ウォン札2枚で済むが、1126万ウォンのエアコンの買うためには5000ウォン札を2252枚が必要となる。北朝鮮ウォンは単純に通貨として「非常に使いづらい」のだ。記者は、平壌のタクシーでさえ北朝鮮ウォンを嫌がったという。

ジェームズ記者は平壌市内でタクシーに乗った。下車時のメーターの料金は4ドルだった。ドライバーに20ドル札を手渡し、北朝鮮ウォンでお釣りを要求した。

ドライバーは、13万北朝鮮ウォンのお釣りを返したが、嫌がっている様子だったという。同行した案内員(ガイド)の目の前で、本来外国人が使えないウォンを渡すことを嫌がったわけではない。単純に「札の枚数が多くなり面倒」だからだった。

こうした状況を解消するためには、単純に高額紙幣を増やせばいいのだが、まともな金融システムも税金制度もなく、さらに銀行も信用されていない北朝鮮では、一度発行された通貨は国庫に戻るず、国内市場をさまよい続ける。

また、ただでさえ激しいインフレの今の状態では、紙幣のさらなる発行は北朝鮮ウォンの価値下落とインフレを招き、次から次へと新たな高額紙幣を発行し続けなければらない。人民元を通貨にする方法もあるが、プライドの高い北朝鮮がそれを許すとは到底思えない。闇レートと公式レートの80倍という「不都合な真実」は北朝鮮経済の足を引っ張り続けるだろう。

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