金正恩第1書記が弱体化する朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の立て直しに躍起になっている。

北朝鮮の国営メディアは3日、金正恩第1書記が対空ミサイル射撃訓練を視察したことを報道。同メディアは、対空ミサイルの写真を掲載しながら、「現代戦の要求に即した多種の新型の高射ロケットの開発をより積極化すべき」と新兵器開発に檄を飛ばす金正恩氏の言葉を伝えた。

北朝鮮は、5月にも潜水艦からのSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の発射実験に成功し、その動画まで公開するなど、新兵器の開発に力を入れている。そのスピードは加速しており、決して北朝鮮の開発能力を侮るべきではない。

ただし、最新兵器の開発に力を入れる一方で、通常兵力という面で朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の弱体化は著しい。

先軍政治という何事においても軍事が優先されるスローガンを掲げる北朝鮮だが、軍部は慢性的な食料不足に苦しんでおり、その内実はお粗末極まりない。金正恩氏も朝鮮人民軍の立て直しに躍起になっているようだ。

金正恩氏は今年初め、「軍の歩兵が携行する戦闘装具類(バックパック)の軽量化を推進せよ」という指示を出した。食糧不足と栄養失調によって体力が弱まった兵士たちが、重装備ではまともな移動すら出来ないからだ。

つい最近では、水揚げされた海産物の「輸出禁止令」を下しながら、朝鮮人民軍の関連機関や、近隣の軍部隊に大判振る舞いしたという。外貨不足の北朝鮮にとって海産物ビジネスは貴重な収入源だ。それを国内にまわす理由は、金正恩氏が軍部の食料問題を深刻視しているからという見方がある。

ただし、軍部の食料問題を解決しようという金正恩氏の方針は、現場へ行けば行くほど様々な弊害を生み出している。

北朝鮮当局は、兵士たちの食生活改善のため各軍隊に大豆栽培のノルマを課している。しかし、今年に限っては大豆の収穫が芳しくなかったことから、ノルマが達成できず処罰を恐れた指揮官が部下の兵士をけしかけて大豆を略奪する事件が多発している。農場でも警戒を強めているが、武装化した盗賊団では分が悪く甚大な被害が発生している。

北朝鮮という国家を蝕んでいる根本的なシステムの問題に手をつけず、上辺だけの問題を解決しようとして、一般庶民がそのしわ寄せを受けるといういつものパターンだ。

しかし、いくら金正恩氏が立て直しを計ろうと、朝鮮人民軍の弱体化は米韓軍当局に見透かされている。

米韓軍当局者の間で2日、「北ミサイルの「探知・かく乱・破壊・防御」の指針を承認された。偵察衛星や無人偵察機などを用いて北朝鮮の核・ミサイル基地の動きを常に監視。有事の徴候をつかみ、素早く攻撃兵器の使用に移行する体制を目指すという。韓国軍は8月には、金正恩氏の「斬首」にまで言及しながら、プレッシャーを強めている。

金正恩氏は、先月10日の朝鮮労働党創建70周年記念の演説で「アメリカ帝国主義が望むいかなる形の戦争にも対応する」と勇ましい言葉を述べたが、当分は米韓の圧力に脅かされる日々を送ることになるだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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