北朝鮮の芸術は、徹頭徹尾プロパガンダであり、その時代の政治背景を反映してきた。故金日成主席によって1946年の解放直後に結成された「血の海歌劇団」は、芸術を通じて社会主義革命を目指すという壮大な目的があった。
一方、1970年代に芸術分野を牛耳った故金正日総書記は、金正恩氏の実母である高ヨンヒ氏も所属した万寿台芸術団などを自らの権力を固めに利用した。反面、平壌学生少年芸術団(通称:ピョンコマ)やポチョンボ電子楽団などは、プロパガンダに加えて現代音楽を積極的に取り入れるなど、世界の芸術の潮流に追いつこうとする試みも見せている。この三つのグループはいずれも来日公演をしている。
こうした経緯を見る限り、金正恩氏が、既に北朝鮮を代表するポップグループになったモランボン楽団があるにもかかわらず、わざわざ新しい楽団を結成したのは、単なるプロパガンダだけではないように思える。
故金正日氏のように「自分だけのオリジナルの楽団を持ちたい」という思いを抱き、さらに楽団を持つことによって父親(金正日氏)越え、そして祖父(金日成氏)越えを果たしたいのかもしれない。そう考えると両楽団が金正恩氏から寵愛を受け、特別な期待を寄せられているだろうことは容易に想像できる。