だからといっていつまでも「芸術家」いわばスターの座にいられるわけではない。最高指導者の沽券にかかわる存在だけに、一歩間違えれば最悪の場合「処刑」が待っている。
今年3月、金正恩氏の夫人である李雪主(リ・ソルチュ)氏が、かつて所属していた銀河水管弦楽団のメンバー4人が公開処刑された。それも裸で立たされた上で、遺体が原形をとどめなくなるまで機関銃で乱射されるという実に残忍な方法で処刑された。
そして、スターを目指したものの、その夢叶わず時には夜の奉仕で国家に尽くさなければならない「喜び組」も存在する。
1945年の建国以来、北朝鮮が芸術を徹底的にプロパガンダとして利用して発展させてきたことは、拙著「北朝鮮ポップスの世界」でも記したが、どんなスターでも犠牲者になりうるーーそれが北朝鮮独裁体制の現実なのだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。