しかし、それで公安調査庁という組織は守られたかもしれないが、対北情報活動にとっては損失も大きかったはずだ。
人間と人間の接触の中で情報を引き出すHUMINT(人的情報活動)においては、「ミイラ取りがミイラになる」という副作用から無縁でいられる者は少ない。情報組織が個人の才能に依存し過ぎれば、必ずこうした問題が発生する。
ということはつまり、こうしたリスクを承知した上で人材をうまくマネジメントすることが、情報活動には必要ということだろう。
日本の情報活動に何よりも欠けているのは、こうした点なのではないか。
そしてその最たる例が、情報には何の関心もない法務官僚が、自分たちのポストのために維持している公安調査庁なのかもしれない。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。