連載・日本の対北朝鮮情報力を検証する/公安調査庁編(3)

2014年夏、朝鮮総連の許宗萬(ホ・ジョンマン)議長は洪仁欽(ホン・イヌン)監査委員長から手渡された報告書を読み、露骨に表情を歪めたに違いない。洪氏は次のように語ったという。

「公安がセセデ(注:「新世代」の朝鮮語。若手活動家を指す)への工作を強めています。残念ですが、警戒心が弱いセセデは次々に籠絡されています」

洪氏が委員長を務める監査委員会は、いわば朝鮮総連内部の秘密警察であり、組織内に潜り込んだスパイの摘発を任務としている。メンバーは朝鮮労働党に忠誠を誓ったエリートで、配下には行動確認――つまりは尾行や監視を行うチームまであるとされる。

狙われた若手商工人の証言

洪監査委員長が許議長に手渡した資料は、同年の春から急増した公安調査庁(以下、公安庁)による「工作」について、秘密裏に調べ上げたもの。そこには、公安調査官がジャーナリストなどに身分を偽装し、あるいは既に「協力者」(スパイ)になっている活動家を介して新たな標的に接近するなどの工作実態が、生々しく記されていた。

公安庁から工作の対象にされたことのある若手の在日商工人が、当時の様子を振り返る。