連載・日本の対北朝鮮情報力を検証する/公安調査庁編(1)

9月30日、朝日新聞が朝刊で、日本人2人が中国当局により「スパイ罪」で拘束されていると報道。その後、マスコミ各社は「2人は公安調査庁(以下「公安庁」)から情報収集を依頼されていた」と続報を打った。

これに対して日本政府は「スパイを行り込むようなことはしていない」と否定している。

その後、中国での拘束が報じられた日本人の人数は3人に増えたが、彼らが公安庁に協力していたというのは、公安事情通の間で広く共有されている情報だ。

3人のうちの1人は脱北者から日本に帰化した人物で、中朝国境地帯で北朝鮮の動静を探っていたとされる。

そもそも公安庁とは、どのような組織か。

厳密には、破壊活動防止法(破防法)に基づいて国内で破壊的暴力活動を行う団体の動きを調査し、団体規制の権限を持つ公安審査委員会に報告するための、いわば「規制官庁」という位置付けだ。決して海外情報を収集する「情報機関」ではない。

組織の生き残りをかけた「海外情報」

では、そんな公安庁が何故、民間人をエージェントに使ってまで、海外情報を収集しているのか。公安庁OBは、その理由をこう話す。

「オウム真理教に破防法を適用できなかったことの影響が大きかった。オウムにすら適用できない破防法は必要ない、そんなことのために活動している公安庁も不要だとして、『公安庁廃止』が政府で真剣に検討された。

そこで焦ったのが、検事だ。

公安庁は法務省の外局であり、長官と次長、ナンバー3の総務部長のポストは、法務官僚である検事に割り振られる。庁が廃止されれば、そのポストも失われてしまう。また、検事は公安庁が集めた情報、とくに国内情報を政治的パワー維持のために使っている裏事情もある」

つまり、公安庁は法務省の「省益」に組み込まれているとの解説である。公安庁OBが続ける。

「そして法務官僚たちが『省益』を守るため、方便として持ち出したのが『情報貢献』だった。情報収集能力を活用し、政府の情報コミュニティーの一員として『海外公安情報の収集でお役に立って見せます』とぶち上げた。そんなことは公安庁設置法に一言も書かれてないのに、法を司る官僚たちがルールをねじ曲げたわけだ。

その後、2000人以上いた職員は1500人にまで減らされ、すべての都道府県に置かれていた公安調査事務所も半減したが、どうにか廃止は免れることができた」

特務機関の伝統を受け継ぐ

この話の通りなら、公安庁の海外活動とは、警察が消防活動を行ったり、防衛省が外交交渉を行ったりしているようなものだ。任務外のことを勝手にやっているのだから、政府は「スパイの派遣などやってない」との公式見解を述べるしかない。

しかし古手の公安ウォッチャーは、「公安庁は当初から海外情報を指向していた」と、別の見方を示す。

「公安庁の前身は1952年、米国からの強い要請で設置された『法務府特別審査局』(以下、特審局)です。右翼の元軍人らのクーデターと、武装闘争を繰り広げていた共産党の監視が当初の目的でした。

ここに、公職追放で職にあぶれていた軍の特務機関員や憲兵、特高警察の出身者が大挙して加わった。公安警察や警察予備隊(現在の自衛隊)が生まれたての赤子の状態だった当時、特審局は『最強の情報機関』と呼ばれていました。

蒋介石の中華民国が台湾に追い出され、数十万人の中国志願軍が朝鮮戦争に参戦していた時期のことです。米軍は、戦中に中国で活動していた特審局要員の持つ、中国本土の情報網が喉から手が出るほど欲しかった。こうして公安庁は、当初は米軍、のちにCIA(米国中央情報局)と強い結びつきができたと言われます」

米国に本店を置く「会社」

こうした生い立ちの名残は、公安庁の人事に見てとることができる。

「公安庁の本来任務は、本庁調査第1部が担当する共産党や右翼など国内情報の収集ですが、部長は外様である警察キャリアの指定席。それに対し、海外情報を担当する調査第2部長には公安庁プロパーが代々就いています。公安庁のDNAが何を指向しているのかは明らかでしょう」(前出・公安ウォッチャー)

今回、中国当局に拘束されたうちの1人が経営する海外企業調査と人材派遣の会社は、米国デラウェア州に本店を置き、名古屋市と中国の上海に支店があるという。

この地域的な展開はもしかすると、上記のふたつの証言と同じ文脈上のものなのかもしれない。

国家が、その存在と国民の生命・財産を守るために情報機関を設置して、情報活動を行うことは、当然のことだ。北朝鮮による日本人拉致を解決できず、むしろ相手の対日外交に右往左往させられている現状を見れば、日本は必要な情報力を備えていないとも言える。

次回は、対北情報戦における公安庁の実態を見ることにする。(つづく)

(取材・文/ジャーナリスト 三城隆)

【連載】対北情報戦の内幕

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