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北朝鮮は10月10日に朝鮮労働党創立70周年記念日を控え、兵士3万人を動員した軍事パレードをはじめ様々な大規模イベントを予定している。その狙いは国内の団結と、国民の金正恩体制への忠誠心を高めることにあるが、現実にはそれとは逆に、様々な葛藤を惹き起こしている。

まず、パレードの動員で貧富の格差が現れている。当日、一般国民は「松明パレード」を行うのだが、骨の折れる訓練に参加したくない党幹部らはワイロを払って動員を免れ、庶民ばかりが汗をかいているのである。

とくに、大量に動員されている主婦たちは、市場の商売などで家計を担う大黒柱だ。動員に時間が割かれると、自ずと生活が苦しくなり、夫婦げんかが絶えないという。

だが、その程度で済むのならまだ良い。3年前には、金正恩氏の最高指導者「即位」を祝うドンチャン騒ぎが引き金になり、凄惨な事件が多発した。

2012年春、北朝鮮当局は数カ月にわたり、首都・平壌の市民に特別配給の大盤振る舞いを行った。大規模な祝賀イベントも開き、ハコモノ行政も強化した。

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その財源は、いったいどこから来たのか。経済が急成長したわけでもなければ、外国から巨額の援助を受けたわけでもない。

国内の穀倉地帯である黄海北道・南道(以下、黄海道)から、食糧を最後の一粒まで奪い取ったのである。北朝鮮の中では比較的、食糧難と縁の薄かった黄海道の人々は、突然の飢饉の前に次々と倒れた。

同年4月10日、まずデイリーNKが「餓死者急増」の第一報を打つ。続いてアジアプレスが現地の状況を詳細に伝えるに及び、阿鼻叫喚の実態が伝わってきた。その中には、耳を疑うような「人肉事件」の証言さえ、多数含まれていた。

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これは明らかに人災であり、その最大の責任は金正恩氏にある。筆者はこのときの出来事ひとつをもってしても、正恩氏の人権感覚は国民の裁きを受けなければならないと考えている。

実は、黄海道の飢餓状況は、北朝鮮指導層も把握しており、その報告は金正恩氏まで上がったという情報がある。ところが、金正恩氏は「健気な人民達だ!」と答えたという。つまり、飢餓になっても食糧を捧げた黄海道の住民達を称えたわけだ。人権感覚の欠如どころか、国家指導者としての資質を疑う言動だ。

あの時から、金正恩体制の本質は何も変わっていない。

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韓国政府は、北朝鮮の食糧事情が昨年より悪化しており、その原因のひとつに、10月10日に向けた行事への労働力の過剰動員を挙げている。2012年の悲劇が、いずれまた繰り返されないとは限らないのだ。

核開発やミサイル発射はもちろん重大な問題だが、それらを最終的に食い止めるには、北朝鮮の民主化以外に方法は無い。

北朝鮮の庶民と、諸外国の国民の利害は一致している。

北朝鮮情勢を見る際に、多くの人がこうした視点を持ってくれることを望みたい。