中国政府がスパイ容疑で日本人男性3人を拘束している問題で、男性らが日本の公安調査庁の協力者であった事実が表面化してきた。

実は、この事実は早くから、一部のメディア関係者の間で共有されていた。しかし、彼らの身の安全にかかわる問題でもあり、日本政府の出方を見守る意味から、報道がやや慎重になっていたのだ。

ところが、政府は菅義偉官房長官が「(海外でのスパイ活動は)わが国は絶対にしていない」と断言したきりで、何らアクションを起こそうとしていない。メディアもさすがに、こらえきれなくなってきたのだ。

ここでは、公安調査庁の手法の良し悪しや、今回の件が「スパイ」に当たるかどうかについては論じるつもりはない。

指摘して置きたいのは、こうした事態が生じたときにどのように対処するか、日本政府にまったく準備がないように見えるということだ。

仮に、菅氏が公安調査庁の関与を知りつつも、戦略的な意図から「(スパイ活動を)絶対にしていない」と強弁したのなら、それはそれで良いと思う。件の男性らが日本政府により送り込まれたスパイでないのなら、中国当局による拘束は「不当逮捕」あるいは「誤認逮捕」であるとの理屈が成り立つ。

安倍晋三首相はその理屈で押しまくり、中国政府に対して「無実の日本国民を返せ!」と強く要求すべきなのだ。

こんな主張をすると、「捕まった男性たちだって、リスクは覚悟の上じゃないのか」「自己責任だろう」との反論をする向きもあるだろう。

それを否定するつもりはないが、いま重要なのは、日本政府が衆人環視の中、情報活動にどのような姿勢で臨むかということなのだ。

もし、日本政府が男性らの救出に動かないならば、今後いったい誰が、リスクを負って日本の情報活動に協力しようとするだろうか。

ちなみに、中国当局の外国人への扱いは、決して甘いものではない。韓国の人権活動家・金永煥氏はかつて、中国当局によって長期にわたり拘束され、電気拷問など様々な拷問を受けた体験を語っている。

今回の件を受けて、すでに公安調査庁は中国での情報収集活動を自粛しているはずで、それは日本の安全保障にとって打撃になる。その上、これから協力者すら得られない事態になれば、その損害は計り知れない。

それはすなわち、中国との諜報戦で日本が敗北することを意味するわけだが、敗因の半分は「オウンゴール」ということになる。

そもそも日本では、情報活動の現場に対する処遇が理不尽なまでに低い。

現状を改善するには、政治が身を切る改革が必要だ。

安倍首相は自衛隊を戦地に送り込むことばかり考えず、自分が矢面に立ってでも、情報活動の協力者を守る姿勢を見せるべきだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

    関連記事