北朝鮮では、90年代半ばから始まった食糧難と経済難が慢性化して、女性たちも農業をしたりお金を稼ぐために、外に出始めたが、今や「共稼ぎ」ではなく、妻たちが夫の代わりに生計を立てている家庭の方が多いと見られる。

国家の配給が中断し、職場に出ても賃金ももらえない多くの家庭の妻たちは、「家事のみをする主婦」という立場を飛び越えて「経済的世帯主」を自任するようになった。

資金がなくて、大規模な商売をできない一般住民たちは、小規模な商売をコツコツ続けながら、一日一日を暮らさなければならない。お金を稼ぐことも大変だが、北朝鮮独特の国家統制のため、二重三重にストレスを受けている。

北朝鮮で商売をする女性の「天敵」は保安員(警察)だ。

今年の1月1日から、「市場統制」を予告してきたが、それ以前からも国家的行事や「田植え戦闘」のような集団動員令が宣布される時期に、商売をする女性に対する取り締まりはあった。取り締まりの期間が来ると、保安員は目を光らせて女性たちを追跡する。

統制品目を売っていないか、商売禁止地域で商売していないか、甚だしくは体のラインがはっきりと見えるズボンをはいていないかということまでうるさく指摘する。運が良ければタバコ1箱でもあげておけば終わるが、運が悪ければ売っている品物を全て奪われて罰金まで払わなければならなくなる。保安員の中には、取り締まりを武器に、商売女性たちに定期的な賄賂や性の上納を要求する者もいる。

平安南道のケチョンと平安北道の寧辺の間に、保衛部傘下の「10号警戒所」があるが、ここに勤務している保衛員たちは、商売をする女性たちをつかまえて、常習的にお酒やタバコ、現金を要求するため悪名高い。20代から30代の女性を一晩中警戒所にとどめ置く保衛員もいる。

これだけでも女性たちのストレスは限界を越えるというのに、「将軍様の方針」と言いながら、「なぜ、スカートをはかなかったのか?」「なぜ、自転車に乗るのか」と、言いがかりをつけられたら、生きる意欲自体を完全に喪失してしまう。

女性たちは普段、農村を回って品物を直接購入して市場で売る。夜明けに起きて自転車に乗って、 農産物を購入するために農村に行かなければならない。保安員たちが早朝から道端に出て来て、「ズボン検閲」や「自転車検閲」をすれば、堪忍袋の緒も切れるだろう。

今、北朝鮮の女性たちがいる所では、誰かに少しでも何かされたらすぐに舌戦が始まる。

妻が家にいない家庭は、むしろ夫の「内助」が切実だ。90年代後半以後、北朝鮮ではお金を稼ぐことができない夫を「ワンチャン(家を守る番犬というニュアンス)」「昼電灯」と見下すことがあった。しかし、日頃の妻の苦労を少しでも理解できる夫は、市場に一緒に行って妻の後ろでうずくまって、いいがかりをつけられないように守ったり、体面を気にして、一緒に出ていくことができなければ家で夕飯の準備をしたりする。

しかし、女性達が一日中働いてクタクタになって家に帰ると、仕事もせずに、ごろごろとしている夫はいまだに多い。家で友人とお酒を飲んで、遊んでばかりいる男性ほど、タバコもいつまでも吸っている。食べる米もないのに、お酒とタバコをやめることができない夫を前に、妻たちのため息は深まるばかりだ。

脱北者を性別の割合で見ると、女性が男性の2倍か3倍と圧倒的に多いが、この理由が、こうした北朝鮮の世相である。中国で働く北朝鮮女性のうち、夫に助けてもらって楽に暮らしていたという女性は100人に1人もいない。

食べて生きていくために足がむくむほど走り回っても、ますます生活が厳しくなる女性たち。夫に愛想を尽かした女性たち。未来に対する期待と希望を完全に喪失した女性たち。こうした女性達が「一度死ねばよい、二度死ぬこともない」と決心して豆満江を渡るのだ。

北朝鮮の庶民の中に元祖「内助の女王」を見つけることは、もはや不可能なようだ。今、北朝鮮で家族全員が生きて行くためには、経済活動のために歯を食いしばって奮闘する女性と、現実的な「内助」のために忠実に努力する男性が、互いに支えあわなければならない。

男性中心の北朝鮮封建文化が変化しつつあるのは、結果的に好ましいことといえるが、変化させた要因が極度の貧困と女性達の犠牲によるものだ。北朝鮮のテレビやラジオから聞こえてくる有名な歌、「女性は花だね」が、虚しく聞こえてくるのはそのためだろう。

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