北朝鮮の人々、特に男性は所構わずタバコを吸う。道端、レストラン、ホテルの室内はもちろん、書店の中ですら平気で吸う。どこにでも灰皿が完備されているので、禁煙の表示などもはや単なるインテリアだ。

北朝鮮製のタバコ。クラベン(左)、727(中)、大同江(右)
北朝鮮製のタバコ。クラベン(左)、727(中)、大同江(右)

誰かに会ったら、まずはタバコを勧めるという習慣が定着しており、紫煙をくゆらせながら話に花を咲かせるのが北朝鮮の当たり前の光景だ。単なる個人の嗜好品を超えて、社交に欠かせないアイテムともいえる。

それだけに、北朝鮮の男性は、大量のタバコを買わざるをえず、出費も莫大だ。そこで普段は懐にやさしい「デチョ」という銘柄のタバコを吸うという。

このデチョ、両江道(リャンガンド)で取れる「葉タバコ」の一種で、非常にキツい。市場のタバコ屋は「一口吸うとガツン!もう一口吸うとクラクラッ!」と書かれた広告でデチョをアピールしているほどだ。

もちろん、一般的なボックス入りの紙巻タバコもよく売れるが、普段は「デチョ」を吸って小遣いを節約しようとする男性も多い。どっちを選ぼうが、よく売れる嗜好品であり、取り扱う商人はほくほく顔だ。

北朝鮮出身のデイリーNKのカン・ミジン記者は北朝鮮のタバコ事情について次のように語った。

「私の夫は、普段はデチョを吸っていましたが、親戚や友人が遊びに来るとなると市場に出むいては、ボックスタバコを、いくつか買ってきます。旧正月、秋夕(旧盆)にもなると1カートン買ってきて、客に振舞いまます。北朝鮮のホスピタリティとでもいいましょうか」

禁煙家が聞けば眉をひそめるだろうが、北朝鮮でタバコ文化は、このように定着しているのだ。

一般的な紙巻タバコは、国営の工場で作られる。タバコ屋では、国営製品も扱われるが、「自家製の紙巻タバコ」を売ることの方が多い。この「自家製タバコ」は、どのようにして作られるのだろうか。

タバコ屋は、まずタバコ工場の従業員とのコネを利用して「葉タバコ」を横流ししてもらう。手に入れた葉タバコは、天気のいい日に庭に並べて酢とソーダを入れた水を撒いて乾燥させる。この時、葉タバコをひっくり返してよく乾燥させるといい色に仕上がる。

乾燥させた「葉タバコ」をそのまま売ることもあるが、より儲けるために、「紙巻タバコ」が作られる。紙巻きは、細長く切った新聞紙に葉を撒けば完成。この時、朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」を使うのが秘訣だ。労働新聞は、紙質がいいのでタバコの味がよくなる。

こうして出来上がったタバコは、市場や路上、マンションの入口などで売られる。葉っぱだけでは、味もわからないので、試飲用も欠かせない。貧しい人の中には、店をはしごして、タバコ銭を節約する人もいる。

商人の中には、20年以上も製造しているタバコ職人も多く、その製造技術は、国営工場の製品の比べて遜色がない。生きるために細々とタバコを製造して売っていたら、「この人が作るタバコはうまい!」と人気を呼び、繁盛することもある。それを元手に「タバコ卸売業」に進出するケースもある。

タバコ一つを取っても、北朝鮮の市場では競争原理が働き、資本とノウハウが蓄積しているようだ。たかがタバコ、されどタバコ。世界的な禁煙ブームによりタバコ産業は斜陽産業かもしれないが、北朝鮮では、まだまだ成長産業のようだ。

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