北朝鮮で、住民を監視、統治するために強権をふるっている保安部(警察)や保衛部(秘密警察)から、退職者が続出している。その理由は、「住民からの仕返しが恐ろしい」からだ。

この流れは、現場の取り締まり員だけでなく、幹部の間にも広がっていると米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。

能力なき者は交代すべき

2013年5月、内閣全員会議で金正恩第1書記は、「ポストを替わりに埋める者などいくらでもいる。能力なき者は適時に交代させなければならない」と実績を上げられない幹部を叱責した。

いわば金正恩氏が飛ばした檄に対して、地方の司法機関(保安部、保衛部、裁判所、検察所)の幹部たちは、発憤するどころか「今のうちに、次の人生を考えなければ」と辞表を次々に出しているという。 慈江道(チャガンド)のRFAの情報筋は、「今のままなら適当な時期に辞めるのがこの国で生き残る知恵だ。下手にポストにしがみつけば家族にまで累が及びかねない」と語った。

この情報筋が、こう語るのにはワケがある。つい先日、中朝国境を流れる鴨緑江に面した慈江道の満浦(マンポ)市の関門洞(クァンムンドン)で、家族が集団脱北する事件が発生した。地域担当の保衛指導員は、直接の責任がないにもかかわらず、連帯責任を問われて更迭されてしまった。

最終的に下された処分については不明だが、運が良ければ工場指導員や細胞秘書への降格、しかし、運が悪ければ家族もろとも奥地に追放される可能性もあるという。

幹部の間で「無気力」が蔓延

連座制が一般的な北朝鮮では、自分とは直接関係がなく、責任がなくても処罰されるケースは多い。高級幹部の粛清・処刑が相次ぐなか、それらの幹部との関係が疑われて、巻き添えをくらうのではないかという恐怖心も高まりつつある。さらに、責任のある仕事をまかされても、ミスを犯せば処刑されるかもしれないという恐怖心も相まって、幹部の間では「無気力」な風潮が広がっている。

幹部だからといって待遇がそれほどいいわけでもない。国からの月給はせいぜい5,000北朝鮮ウォンほどで、コメ1キロが買えるか買えないかの少額だ。生計のため、住民からワイロを巻き上げざるをえないが、やり過ぎて恨みを買いどんな仕返しに遭うかわからない。

不動産関連など、大きな利権に関わる部署なら多額のワイロを手にすることができるが、リスクが高いわりには儲からない司法機関などでは、「さっさと辞めて、他の幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)とのコネを利用して商売を始めるほうが、より安全」と考えるイルクン(職員)が増えている。

第二の人生を始めた元保衛部職員

咸鏡南道(ハムギョンナムド)の別の情報筋は、「道の保衛部の副部長だった友人が退職して、ソビ車(個人運送業)の商売に乗り出した。今ではバス2台を所有して結構儲けている。私も早く辞表を出したいのだが、いい口実が思いつかずに悩んでいる」と語った。

幹部の間では、「南北の軍事的緊張も高まり、中国との関係も悪化しているので、いつ世の中がひっくり返って、恨まれて殺されるかわからない」という恐怖感も高まっている。

金正恩氏は「代わりはいくらでもいる」と言ったが、その言葉とは裏腹に、幹部を志望する者がおらず、高級幹部たちも頭を抱えているという。

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