北朝鮮のテレビと言えば朝鮮中央テレビが世界的に有名だが、それ以外にも2つの放送局がある。一つは朝鮮教育文化テレビ(以前の開城テレビ)、そしてもう一つが万寿台(マンスデ)テレビだ。

朝鮮中央テレビキャスター
朝鮮中央テレビキャスター

アニメ「トムとジェリー」も放送

1983年に開設された「万寿台テレビ」の放送は、週末や祝日にのみ。受信できる区域は平壌市とその周辺に限られている。プロパガンダ一色の朝鮮中央テレビと違い、外国映画も頻繁に放映する。

過去には、「トムとジェリー」「アリババと40人の盗賊」「ノートルダムの鐘」などのアニメからはじまって、小泉八雲の「怪談」などの日本映画も放映されたが、なんと言っても爆発的な人気を集めたのが1990年に放映されたインド映画だった。

歌や踊り、派手なラブシーンなど北朝鮮映画では絶対にお目にかかれないシーンの連続で、平壌市民を魅了した。ここ最近は、以前のコンテンツと比べて「つまらなくなった」という声もあるが、平壌市民にとって数少ない週末の楽しみの一つだった。

その万寿台テレビが、7月から急に放送されなくなったと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。放送休止に失望した平壌市民の間では、その原因を巡って様々な憶測を呼んでいるというが、ある平壌市民はRFAに次のように語った。

「万寿台テレビが人民に(余計な)外国情報を知らせているという金正恩氏の批判があったと聞いた。また、当局の幹部が、立場を利用して外国情報をこっそりと楽しむなど不正を働いたというウワサもある」

こうしたなか、最も説得力を持って受け止められているのは、金正恩氏の妹、「金与正(キム・ヨジョン)氏関与説」だ。

宣伝扇動部の副部長を務める与正氏が「外国情報を流す万寿台テレビは、金正恩同志の偉大性の宣伝に役に立たない」と主張して、放送中止に追い込んだという説だ。

もし与正氏が関与していたとするなら、彼女は「テレビ統制」の強化が、既存のテレビ離れをさらに加速させることを知らないようだ。

80年代初め、韓国、台湾、マレーシアではビデオデッキが日本以上に普及して、街にはレンタルビデオ店があふれた。背景には、政府が検閲した「テレビコンテンツがつまらない」という理由があった。これは北朝鮮も同じだ。

いくら韓流ドラマに対する取り締まりが強化されようと、一向になくならず、住民が危険を顧みず見ようとするのは「国営テレビのコンテンツがつまらない」の一言に尽きる。また、住民達が好む「北朝鮮ドラマ」は、政治色が比較的薄いものだ。

北朝鮮住民が好む「テレビコンテンツ」について、最近、訪朝した日本人旅行者は次のように語った。

「歌番組が始まるとガイドやホテルの従業員が、テレビの前に集まり『この娘は歌がうまい』だの『美人』だのと盛り上がりますが、終わった途端に蜘蛛の子を散らすようにテレビの前からいなくなりました」

「夜11時になるとホテルのケーブルテレビで、北朝鮮の恋愛ドラマが放映されましたが、工場の女性支配人と部下の技術者の許されぬ禁断の恋がテーマでした。翌朝、ホテルの従業員たちはドラマの話題で持ちきりでしたよ」(最近平壌を訪れた日本人観光客)

いくら、当局がお金をかけて、視聴を強制しても、つまらないものを見ようとする人は誰もいないのだ。

【関連記事】朝鮮中央テレビが韓国テレビに「視聴率争い」で敗北?!

    関連記事