旧ソ連では、体制に反抗する人々を「精神病患者」と決め付け、精神病院に強制入院させて薬物投与を行っていた。また、中国では同様の状況が未だに続いていると言われており、その実態を描いたドキュメンタリー映画「精神病棟」は世界に波紋を投げかけた。

一方で、北朝鮮の精神病院の実態についてはほとんど情報がないのが実情だ。

「外国はいい」などと言うと…

そんな中で、米国の北朝鮮専門ニュースサイト「NKニュース」は、北朝鮮における精神医療について報道している。

NKニュースは、「北朝鮮の人々は精神疾患をどう治療するのか」と題した記事で、脱北者イ・ジェソンさんの証言を引用し、北朝鮮には心の病を抱えた人が大勢いるが、専門的に治療する医療機関や医師がおらず、家族の支えに頼らざるをえない状況だと報じた。

2011年に脱北して現在は韓国在住のイさんは「北朝鮮では『精神科医師』という言葉を聞いたことがない」「神経科専門医は存在するが、神経系の疾患の治療は行っても精神疾患を治療することはない」と語った。

イさんは続けて、「北朝鮮には『49号病院』と呼ばれる精神病棟が存在するが、山の中にあり、精神疾患を治療するのではなく、患者を収容するだけの施設だ」と明らかにした。

しかし、イさんは「49号病院はどこの所属で、誰が具体的にどのように何をするのかはわからない」と、北朝鮮の国内でも精神病院の実態がさほど知られていないと証言した。

また「暴行されたり、食事をまともにもらえなかったりする上に、世間から白い目で見られるので、家族は患者を49号病院に送ることを嫌がる。自宅で面倒を見るのが普通だ」とも語った。

一方で、デイリーNKの内部情報筋は、北朝鮮の精神病院が本来の目的とは違う形で使われていると指摘する。

最近、海外勤務から帰国した北朝鮮外交官が、精神疾患にかかったわけでもない自分の子どもを精神病院に入院させるケースが増えているというのだ。

上流階級に属する外交官の子どもは、平壌で良い暮らしをしているので「我が国は地上の楽園」というプロパガンダを鵜呑みにする傾向が強いという。ところが、父親の海外赴任に伴って情報があふれる海外で暮らすようになるとその嘘に気づいてしまい、北朝鮮を極度に嫌うようになってしまう。

父親に本国からの帰国命令が出ても、子どもは「あんな国に帰りたくない」と駄々をこねる。ようやく説得して連れ帰っても親は安心できない。

友達に「外国はいい」などと言ったことがバレたら、保衛部に呼び出しを食らい数ヶ月に及ぶ取り調べを受けて外交官をクビになったり、家族全員が教化所(刑務所)送りになったりするからだ。見せしめで処刑されるおそれすらある。

それを恐れた親は、精神病院にワイロを払って子どもを入院させてしまうのだ。精神病院の中ではいくら「外国はいい」と言っても、「この子は病気だから」の一言で見逃されるからだ。

粛清、処刑が相次ぎ「明日は我が身」と恐怖に震えている幹部たちは、自分と家族を守るために、わが子をも犠牲にせざるを得ない境遇に追い込まれているのだ。

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