それを何かに例えろと言われたら、私は「網戸にへばりついたカメムシ」と即答するだろう。

6月28日、韓国のソウル市庁前広場で「コリア・クィア・カルチャー・フェスティバル」と、広場を起点にしたパレードが行われた。

会場ではLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)当事者たちはもちろんのこと、企業や大使館などもブースを出展。セクシュアル・マイノリティやダイバーシティへの理解を深めるための、アピールやパフォーマンスなどを行っていた。

その会場を囲んだ簡易鉄柵の向こうに、韓国内の一部プロテスタント信者がびっちりと張りついて抗議活動をしていたのだ。

「イエスーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」

太鼓を打ち鳴らし、絶叫するプロテスタント系団体関係者の少女たち。(撮影:筆者)
太鼓を打ち鳴らし、絶叫するプロテスタント系団体関係者の少女たち。(撮影:筆者)

広場とソウル市庁舎の間のわずかなスペースを陣取り、昼前から太鼓を叩いて抗議をしていた集団の少女が、嬌声をあげた。10代にも見えるあどけない表情の彼女らは、韓服や白いワンピース姿で一心不乱に太鼓を叩き、叫び、時に大極旗を振りまわしていた。

この日のソウルは、真夏を思わせる強い日差しが照りつけていた。炎天下をものともせず、延々と演奏を続けるその姿からは、恐怖しか感じ取ることができなかった。

彼女らのすぐ前ではやはり韓服姿の男性が、まるで自分のステージであるかのように満足そうな表情で舞い、その周りには「同性愛 同性婚 決死反対」などのプラカードを掲げる者が立っていた。

拙著『韓国のホンネ』にも登場した韓国の友人・ヒジョンは集団を横目にしながら、 「あんな人たちは、韓国のごく一部ですよ!なのに国を代表しているみたいな顔で、大極旗を振り回さないで欲しいよね。人と異なっていることは、決して間違っていることではない。あの人たちは『同性愛は治療できる』とプラカードに書いていますが、よくそんなことが言えるね」と、怒りをあらわにした。

会場を囲む防護柵にびっちり張りついてイベントに抗議するプロテスタント系団体関係者に、レインボーフラッグで応戦。(画像:筆者提供)
会場を囲む防護柵にびっちり張りついてイベントに抗議するプロテスタント系団体関係者に、レインボーフラッグで応戦。(画像:筆者提供)

抗議者とフェスティバル参加者の衝突を防ごうと、警察がガードをするものものしい空気のなか、私達は会場に足を踏み入れた。すると一転してそこは、幸せな空気に満ちているように感じられた。

「アンニョーン!」

9日のオープニングイベントにも来ていた参加者から、さわやかな挨拶を受ける。日本から来た私のことを、覚えていてくれたのだ。

韓国人、韓国人以外、女性性、男性性、どちらにも分けられない者、若者、昔は若かった者、ハンディキャップを持つ者…。広場にはさまざまな人が集まり、誰かと話したり芝生に座ったりと、思い思いの時間を過ごしていた。

広場前でのイベントを楽しむ参加者たち。パレード開始2時間前には、これだけの人が集まっていた。(画像:筆者提供)
広場前でのイベントを楽しむ参加者たち。パレード開始2時間前には、これだけの人が集まっていた。(画像:筆者提供)

「この日が来てうれしい」と気軽に記念撮影に応じてくれたのは、ムン・ジェイン率いる韓国の第二党、新政治民主連合所属のキム・グァンジン国会議員だ。

新政治民主連合所属のキム・グァンジン国会議員。国防委員に所属していて、若手議員の期待の星。(画像:筆者提供)
新政治民主連合所属のキム・グァンジン国会議員。国防委員に所属していて、若手議員の期待の星。(画像:筆者提供)

また、韓国初の公開同性結婚式を果たし、自身の結婚ドキュメンタリー映画も制作したキムジョ・グァンス映画監督と、パートナーのキム・スンファン氏の姿もあった。

「今日の感想は?」と質問すると仲睦まじい2人は、「市庁前でこのようなパレードとフェスティバルができたことは感無量。同性婚が早く合法化して欲しい」と語った。

映画監督のキムジョ・グァンス氏と、パートナーのキム・スンファン氏。自身の結婚をテーマにしたドキュメンタリー映画『MY FAIR WEDDING』が、韓国で公開中。(画像:筆者提供)
映画監督のキムジョ・グァンス氏と、パートナーのキム・スンファン氏。自身の結婚をテーマにしたドキュメンタリー映画『MY FAIR WEDDING』が、韓国で公開中。(画像:筆者提供)

「恋人募集」というバッジを胸にしたある参加者は「寂しいパレードなのよ~。かっこよくて素敵な恋人、募集中!」と、少しだけできるという日本語ではにかんだ。

彼らにとってあの妨害行為は、どんな風に映っているのだろう?レズビアンであることをカミングアウトしている女性にたずねると、「ああいうジャマがあるのも、どこかクィア的ですよね。あの人たちもいつか、こちらに参加して欲しいです」と余裕を見せた。

「許せない」「ありえない」。そんなコメントを想像していた私の期待は、見事に裏切られた。しかし、敵であってもどこか相手を尊重している姿に触れて、私自身の心も温かくなるのが感じられた。

「10代エイズ 発病蔓延 私の子供が死んじゃう~」などと書かれた、LGBTとエイズ患者双方への差別意識がにじむプラカード。(画像:筆者提供)
「10代エイズ 発病蔓延 私の子供が死んじゃう~」などと書かれた、LGBTとエイズ患者双方への差別意識がにじむプラカード。(画像:筆者提供)

そして午後5時少し前になると、いよいよパレードがスタート。予定コースを警察が幾重にもガードし、地下通路の出入口まで塞ぐ中、フロート(山車)と参加者たちがレインボーに彩られながら、明洞方面を目指した。

フロートのうち1つは4月に渋谷区内でパレードをおこなった『東京レインボープライド』と、ヘイトスピーチをはじめとする差別に立ち向かう団体『TOKYO NO HATE』によるもので、東京レインボープライドの山縣真也共同代表やフリーライターの李信恵さん、ゲイをカミングアウトしている、東京都豊島区議員の石川大我さんの姿も見られた。石川さんは反対派から韓国のLGBTを守るべく、前日に急きょソウル入りしたそうだ。

パレードに参加した東京レインボープライドの人々。(撮影:島崎ろでぃ)
パレードに参加した東京レインボープライドの人々。(撮影:島崎ろでぃ)

夕方とはいえ、この季節のソウルはまだまだ明るい。3万人が日差しと沿道の見物客に祝福されながら、自分らしい姿で観光スポットを約2.6キロに渡って行進。全力で妨害を試みて警察に押さえつけられた者はいたものの、トラブルなく終了した。

石川さんはパレード終了後、「開催が危ぶまれたパレードだったが、司法の良識的な判断で歩くことができた。同じLGBT当事者としてソウルのパレードを歩けたことを誇りに思う。そして初めて参加したという韓国のLGBTユースにとって、今回の成功体験は大きな力になったはず。彼らが未来の韓国LGBTシーンを大きく変えてくれるはず」と、感想を述べた。

それぞれが帰路につこうとする時間になっても、まだ抗議は続いていた。切羽詰まった、追い詰められたかのような表情で声をあげている。

片側3車線を埋めたパレードの参加者たち。(画像:島崎ろでぃ)
片側3車線を埋めたパレードの参加者たち。(画像:島崎ろでぃ)

しかし、ヒジョンは「あの人たち大声で怒鳴ってるから、何言ってるかさっぱりわかりません」とバッサリ。韓国語ネイティブにすら理解されない抗議をよそに、第16回を迎えた「コリア・クィア・カルチャー・フェスティバル」は、無事に幕を閉じた。

「来年また会いましょう~!」

私は、海外からの参加者になるのに、参加者たちはそんな言葉をかけてくれた。「韓国は日本よりもLGBTに厳しい」と一般的に言われているが、多様性の扉はちゃんと開いている。彼ら彼女らの笑顔や言葉から、私は希望を感じ取ることができた。

満面の笑みをたたえるパレード参加者たち。(画像:島崎ろでぃ)
満面の笑みをたたえるパレード参加者たち。(画像:島崎ろでぃ)

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朴順梨(パク・スニ)
1972年生まれ。大学卒業後、テレビ番組ADと情報誌編集を経てフリーライターに。著書に「韓国のホンネ」「奥様は愛国」(共に共著)「離島の本屋」などがある。8月に新刊が出版予定。

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