狂気すら感じさせる同性愛反対派の抗議活動

今月28日に韓国で開催される性的マイノリティの祭典、「ソウル・クィア・パレード」。今年で15回目を迎えるが、昨年から宗教団体や極右団体により激しく妨害されるようになった。9日、パレードに先立って行われた「クィア・カルチャー・フェスティバル」のオープニングセレモニーにも、数千人が抗議に押し寄せた。現場の緊迫した様子をノンフィクションライターの朴順梨さんが伝える。

「アナルセックス擁護者の朴元淳ソウル市長はやめろ」と書かれた反対派のプラカード(画像:筆者提供)
「アナルセックス擁護者の朴元淳ソウル市長はやめろ」と書かれた反対派のプラカード(画像:筆者提供)

MERSで観光客の減ったソウルの街

5月31日午後、ソウル市内中心部にある免税店は、まさに阿鼻叫喚の様相を呈していた。まっすぐ歩けないほどに人がフロアを埋め尽くし、コスメカウンターの前には二重にも三重にも列ができていた。大声で聞こえてくるのは、ほとんどが中国語だ。

しかし、その約2週間後の6月13日、ほぼ同じ時刻に同じ場所を訪ねてみると、客はいるもののスペースに余裕があり、スムーズに歩けてしまった。31日はどのショップでも会計待ちの列ができていたのに、手持無沙汰に立っている店員も目についた。

「MERSのおかげで中国からのお客さまがガタっと減ってしまって、私たちは悲しいです。人がいない分、日本のお客さまは買い物しやすくて嬉しいかもしれませんが…」  そう語ったのは、別の免税店の女性店員だ。

6月に入った頃から韓国内では、「MERS」(中東呼吸器症候群)の流行が懸念されるようになった。

当初は、韓国保健福祉部・疾病管理本部が作った「ラクダと密接な接触は避けて」「滅菌してないラクダの乳や、生肉を摂取するのは避けて」などと書かれた、ほのぼのとした雰囲気すら漂うポスターが張り出される程度だった。

韓国保健福祉部・疾病管理本部が作った、MERSへの警戒を呼び掛けるポスター。絵がかわいい。(画像:筆者)
韓国保健福祉部・疾病管理本部が作った、MERSへの警戒を呼び掛けるポスター。絵がかわいい。(画像:筆者提供)

しかし、17日になると感染者は162人、死者は20人となった。これにより訪韓を自粛する人が増えたことは、先ほどの店員の言葉からもよくわかった。

いまだ解決の糸口が見えてこないMERS禍だが、騒動に乗じて持論を展開する団体まで現れた。それは反同性愛を掲げる、保守プロテスタント系の団体だ。

MERSが広まるからパレードやめろ

ソウル市内では6月9日から28日までの約3週間、「クィア・カルチャー・フェスティバル」が行われる。これはLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)などのセクシャル・マイノリティを祝福し、彼ら彼女らへの理解を深めるためのイベント。

だが、6月5日の国民日報によると、韓国教会連合は朴元淳ソウル市長に対して、「MERSの余波で各種行事が取り消しになっているのに、9日と28日にソウル市庁前広場で開催され、同性愛を支持する親同性愛者が1万人以上集まるクィア・カルチャー・フェスティバルとパレードを強行することは、参加団体同士の衝突による不祥事はもちろんのこと、数多くの群衆が殺到することで、MERSに対する国民の不安感をより一層重くさせることになる。朴市長は広場使用を直ちに取り消せ」などと書かれた文書を送ったそうだ。

つまり「MERS騒動の真っただ中なんだから、集まった人が感染したらどうする!」と、彼らは主張しているようだ。

「同性愛を拡散させるクィア・カルチャー・フェスティバルは即刻中止せよ」と保守プロテスタント各教団の反応を大々的に報道する韓国の国民日報(画像:読者提供)
「同性愛を拡散させるクィア・カルチャー・フェスティバルは即刻中止せよ」と保守プロテスタント各教団の反応を大々的に報道する韓国の国民日報(画像:読者提供)

「主よー!!!!」と絶叫を繰り返す反対派

だが6月9日、クィア・カルチャー・フェスティバルのオープニングセレモニーが開催される予定になっている広場に向かうと、反対派の保守プロテスタント系団体信者が、広場やすぐ向かいの徳寿宮前を占拠。

MERSが心配だから集まるなと言っておきながら、自分たちは集うことに対しての矛盾を感じないのか、何時間にも渡り集団で「同性愛!同性婚!反対!」などのシュプレヒコールや、「主よー!!!!」という絶叫を繰り広げていた。

「同性愛クィア決死反対(同性結婚禁止法を制定せよ)」と書かれた反対派の横断幕(画像:筆者)
「同性愛クィア決死反対(同性結婚禁止法を制定せよ)」と書かれた反対派の横断幕(画像:筆者提供)

反対派に包囲されたセレモニー、あちこちで口論も

さらにセレモニーを見届けるために集まったセクシュアル・マイノリティの当事者たちやその支援者たちに「同性愛は罪!同性愛が広がるとエイズが広がって国が亡びる!イエス様の愛があれば足が洗える!」とわざわざ言うために近づいてきたため、警察に阻止される女性信者の姿も見られた。

どうやらMERSは単なる建前で、同性愛者を許せない・許したくないというのが本音の模様。彼らは自分たちの主張を絶対的に正しいと信じているようだが、同性愛が広がって亡びた国は歴史上ない(彼らが引き合いに出すソドムとゴモラは、旧約聖書の世界にしか存在しない)。根拠レスな持論を展開するその姿は、まさに日本のネトウヨ団体とリンクするものがあった。

「性的指向による差別禁止とは勝手だ」「同性愛は遺伝でも先天的でもなく治療できる」と書かれたプラカードを持つ反対派の女性。(画像:筆者提供)
「性的指向による差別禁止とは勝手だ」「同性愛は遺伝でも先天的でもなく治療できる」と書かれたプラカードを持つ反対派の女性。(画像:筆者提供)

主要各国の外交官が出席した性的マイノリティのセレモニー

そんななかでもセレモニーは、MERSに配慮して一般には非公開(Youtubeにて生中継された)とされたが、予定よりも1時間以上遅れたものの華々しくスタート。

アメリカやカナダなど13ヶ国の大使館やソウル市人権委員会のムン・ギョンナン委員長などが参加して、性的マイノリティへの理解や性の多様性について訴えた。

オープニングセレモニーのステージ上がった13カ国の駐韓大使や外交官たち。(画像:読者提供)
オープニングセレモニーのステージ上がった13カ国の駐韓大使や外交官たち。(画像:読者提供)

18日から21日まではクィア映画祭が新沙洞ロッテシネマで開催され、最終日の28日には市庁前広場を起点に、パレードが開催されることになっている。

パレードには、合法的な許可が下りているが、すぐ近くの徳寿宮前と清渓広場では、反同性愛団体による集会が許可されているそうだ。これにより沿道からの罵声や、シットインなどの妨害行為が予想される。

2014年のソウル・クィア・パレードは保守プロテスタント団体の妨害により大混乱に陥った。(画像:読者提供)
2014年のソウル・クィア・パレードは保守プロテスタント団体の妨害により大混乱に陥った。(画像:読者提供)

クィア・カルチャー・フェスティバルは今年で16回目を迎えるが、妨害が目につくようになったのは昨年あたりから。

ソウル市民の50代男性は信者のシュプレヒコールを横目にしながら、「盧武鉉政権の頃は、韓国でも多様化が進むのではないかという期待を自分も持っていた。しかし、朴槿恵政権の発足後は、どんどん時代が逆戻りしている気がする」と語った。

多様性など認めない韓国に戻ってしまうのか。それとも未来への扉を開くのか。28日のパレードからは、そんなことも見えてくるのかもしれない。

クィア・カルチャー・フェスティバルのオープニングセレモニーは妨害にもかかわらず盛大に行われた。(画像:読者提供)
クィア・カルチャー・フェスティバルのオープニングセレモニーは妨害にもかかわらず盛大に行われた。(画像:読者提供)
朴順梨(パク・スニ)
1972年生まれ。大学卒業後、テレビ番組ADと情報誌編集を経てフリーライターに。著書に「韓国のホンネ」「奥様は愛国」(共に共著)「離島の本屋」などがある。8月に新刊が出版予定。


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