連載・日本の対北朝鮮情報力を検証する/外事警察編(2)

戦後から冷戦が終結するまで、外事警察にとって最大の任務は、国内で暗躍するソ連スパイや日本人協力者をあぶり出し、時には微罪や別件をもって事件化することで、日本を東側陣営による「間接侵略」から防衛することだった。

そんな経緯もあり、往年の外事捜査員の間には「本当に国を守ってきたのは自衛隊じゃない。俺たち外事警察だ」との強烈なエリート意識がある。

そんなカウンター・インテリジェンス(防諜)の最前線で戦ってきた外事警察が、とくに北朝鮮担当部門において、国内向けの「政治警察」と化してきたのは前回述べたとおりだ。

「共産党や極左セクトの担当者たちを『超ドメ』と呼んで小馬鹿にしていたのも、今は昔です」

警視庁公安部外事2課のOBは、こう言って苦笑する。「超ドメ」とは「超ドメスティック」の略で、国内にしか目が向いていない、ということを揶揄する隠語だ。OBは続けて言う。

「外事警察も、今や完全に官邸の北朝鮮外交のコマですよ」

朝鮮総連は「主要な敵」

警察庁警備局外事情報部が統括する全国の東アジア(中国・北朝鮮)担当の外事警察の中では、150名の人員を擁する警視庁公安部外事2課が最大勢力だ。

その中で北朝鮮を担当するのは、東アジア6係と同7係。「情報班」と呼ばれる6係が直接の情報収集と各警察署から上げられた情報の整理を、「事件班」の7係が事件の内偵・捜査をそれぞれ受け持つ。

さらに、警察庁が同課をいかに重要視しているかは、キャリア警察官の配置からうかがい知ることができる。

警視庁公安部の筆頭課は、日本共産党を担当し、朝鮮総連を含むその他の対象組織内に獲得した「協力者(スパイ)」のすべてを統括する公安総務課だ。公安総務課長は歴代、警察庁長官候補のキャリアが就任してきた。そして、2002年10月に米国の強い要請を受けて発足した国際テロ担当の外事3課の課長も、警察庁キャリアの指定席である。

これらに加え、外事2課の課長にキャリアが就くようになったのは、第1次安倍政権が発足して以降だとされる。

つまり、公安警察にとっては日本共産党と中国・北朝鮮(朝鮮総連)、そして国際テロが「主要な敵」であるということなのだ。

キャリア課長は「お荷物」

手元に『戦後の外事事件』(東京法令出版)という本がある。外事警察官の昇任試験用の参考書ともいえる同書には、戦後に外事警察が検挙した全61件のスパイ事件について詳細に記されている。

それらの多くは、北朝鮮で工作員教育を受けた在日朝鮮人や北朝鮮から不法入国した工作員が軍事情報や先端科学技術情報を狙ったもので、外事警察の“王道”であるカウンター・インテリジェンスの「栄光の記録」ともいえる。

しかし、冷戦という「古き良き時代」に活躍したスパイハンターである前出のOBは「ソトニ(外2)から防諜力は失われた。今の連中にスパイや工作員を逮捕するなんて無理だ」と指摘する。

「キャリアが課長に来たのは、組織にとってはマイナスでしかない。現場は課長が異動するまでの間に、必ず事件を挙げなければならない。キャリアに『実績』というお土産を持たせるためだ」

「ところが時代は変わり、北朝鮮は昔ほど活発に対日工作を行わなくなった。やっているとしても短波無線で連絡を取っているわけではないので、尻尾をつかみにくくなった。そんな環境で事件を挙げるには、以前にも増して地道な情報収集が必要になる。2年という期限を設けられては、できる仕事じゃないんだ。そうなれば必然、現場は“お手軽”なネタに走りがちになる」(前出・外事OB)

前回も述べたように、「政治警察化」して以降に摘発された北朝鮮がらみの外事事件は、ニット生地や冷凍タラ、壁紙、ファンデーション、そしてマツタケなどの「日用品」の類の不正輸出が目に付く。

組織の強化のためには当然、人事の強化が必要だろう。しかしそれも、「現場本位」で行われてこそ効果を生む。

「キャリアはいずれ出世する」「出世するからエライ」「エライ人は能力が高い」「そういう人材を配置すれば実績が上がる」……。一般社会ではとうてい通用しない、そんな独りよがりの論理が外事警察を蝕んでいる。

その一方で、キツイ実績作りを強いられる現場人員の捜査費が「大幅に増額された」などといった話は聞こえてこない。

そんな矛盾に満ちた状況の中、外事警察は「積年のライバル」に無残に敗北し、いっそう焦燥感を募らせることになる。(つづく)

(取材・文/ジャーナリスト 三城隆)

【連載】対北情報戦の内幕

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