私も取材の手掛かりを求めてこの報告書を入手したが、あまりに内容が幅広く、全容を把握するのに数日を要したほどだ。
しかも、前掲書で提起された疑惑の多くは、この報告書がまとめられた後、新たに提起されたものなのである。その様を見守る遺族たちは、疑惑の渦に飲み込まれるような気持ちだったに違いない。
街全体から犠牲者が……
2014年8月中旬、韓国・安山市を訪れた。セウォル号に修学旅行のために乗り込み、260人以上の生徒・教師らが犠牲となった檀園高校の地元だ。そこで聞いた遺族団体関係者の言葉に、私は思わず耳を疑った。
「産経新聞は、あの記事をよく書いたと思いますよ」
産経の“あの記事”とは、同年8月3日付の同紙電子版に掲載されたソウル支局長のコラムのことだ。沈没事故の当日、朴槿恵大統領が7時間にわたり所在不明となり、その間に「男性と密会していたのでは」と匂わせたことが問題視された。その後、同支局長が韓国検察により刑事訴追されているのは周知の通りである。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面韓国人の間でも、検察の行き過ぎを指摘する声は少なくない。それでも、「記事の内容は別として」などと前置きするのが普通だ。産経に対する手放しの「称賛」は、政府に対する強烈な不信感の表れに他ならない。
「あの団地では、同じ棟の20人近い子供たちが亡くなりました。あっちの町内でも、同じぐらいの犠牲者が出ています……」
関係者は街を案内しながら、声を絞り出すように言った。いっせいに子供を失った数百人の親たちが、毎日顔を合わせながら暮らす街の沈鬱さは、何とも言い表し難いものがあった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面一般的な航空機事故や船舶事故の犠牲者らは、偶然いっしょになった他人同士であることが多い。しかし街そのものが犠牲を出したセウォル号の場合、人々の脳裏には事故の記憶が強く残り続けることになる。
関係者は、語気を強めて言った。
「疑惑について『根拠がない』と言うなら、政府は堂々と事実を明かせば良いのです。それをせずに言論を力で抑え込むのは、知られてはマズイことがあるからでしょう。こうなったら、政府など信じることはできない。だからこそ私たちは特別法を求めてきたのです」
断食する遺族の前でピザを食い散らかす
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面遺族たちの求めてきた特別法は、民間の専門家が参加する委員会に強力な捜査権と起訴権を付与し「聖域なき捜査」を行わせようというものだった。
民間に起訴権まで与えた事例は過去になく、政府与党だけでなく保守系のメディア、市民団体などが強く反発。一部では遺族に対する同情心まで吹き飛び、遠慮のない非難の言葉が飛び交った。