京都府警を中心とする合同捜査本部が追及している、北朝鮮産マツタケの不正輸入事件。16日にも、容疑者2人が外国為替法違反容疑で再逮捕された。

言うまでもなく、警察の主眼は北朝鮮産マツタケの「輸入ルート」解明などとは別のところにある。この事件は、警察が朝鮮総連内部に手を突っ込むための「入口事件」に位置付けられているに過ぎない。

「入口事件」という言葉は、実際に警察内部で使われてきた用語だ。1999年、警察庁内部で作成されたとされる文書が外部に流出した。そこに記載されていたのが、この言葉なのだ。

その文書のタイトルは、「北朝鮮への不正送金対策推進計画」という(下の写真)。読んで字のごとく、朝鮮総連に対する捜査マニュアルである。B5版2枚で、1枚目の右肩には平成5年(1993年)12月1日の日付とともに、秘密文書であることを示す「秘」の印がある。

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この文書の存在が世間の知るところとなった1999年5月、国会での質疑で「本物か」と問われた関口祐弘警察庁長官(当時)は、肯定も否定もできない苦しい答弁に終始した。

以下に同文書の全文と、国会でのやり取りを掲載する。

警察庁の「対朝鮮総連」捜査マニュアル

平成5年12月1日 秘

北朝鮮への不正送金対策推進計画

第1.趣旨

北朝鮮の核問題をめぐり朝鮮半島の緊張が高まっているが、こうした中、「在日朝鮮人による北朝鮮への送金問題」が、大きな問題としてクローズアップされてきている。しかしながら、送金額、送金方法を含めてその実態については未解明の部分が多い。このため、外事第一課、生活保安課、捜査第二課が合同して、送金の中心をなすとみられる朝鮮総聯系パチンコ業者等の大物商工人を重点に事件化を図り、早急にその実態を解明するとともに、北朝鮮への不正送金を阻止する必要がある。

第2.推進計画

1.基本方針

警視庁、大阪府警において対策を推進することとする。それぞれの警察の外事担当課、風俗担当課、捜査第二課において、各種法令を適用し、大物商工人たるパチンコ業者に対する事件化を図る。

2.推進体制

(1)警察庁の体制

庁内に外事第一課、生活保安課、捜査第二課からなる対策チームを設置して、警視庁、大阪府警に対する指導及び調整に当たる。

○外事第一課?事務局、事件化対象の選定、事件化素材の抽出、事件の着手
○生活保安課?事件化素材の抽出、事件の着手(風営適正化法関係)
○捜査第二課?押収帳簿等の分析、国税当局との連絡折衝

(2)警視庁、大阪府警の体制

 警察庁の体制を踏まえ、外事担当課、風俗担当課、捜査第二課の三者による「合同対策チーム」(外事担当課に事務局)を設置して、捜査、解明に当たる。対策チームの要員については、精鋭を厳選する。

3.推進要領

(1)朝鮮総聯系パチンコ業者一覧表の作成

(2)対象の第一次絞り込み

  北朝鮮(朝鮮総連)への貢献実態、訪朝・訪船歴、土台性、収入、資産等に着目する

(3)対象の内偵捜査

(4)事件化素材の有無等による対象の第二次絞り込み

(5)入口事件の着手

  被疑者の逮捕・取調べ、関係場所の捜索、参考人の取調べ等

(6)押収資料等の分析→送金実態の解明

(7)入口事件の送致

(8)脱税容疑の抽出→課税通報→強制査察

(9)送金実態の解明

4.留意事項

(1)対策検討会議の開催

  警視庁、大阪府警の外事担当課、風俗担当課、捜査第二課担当課長を警察庁に招致して、本対策の趣旨、体制、具体的推進要領、保秘等について指示する。

(2)保秘の徹底

  本計画は、機微にわたる面が多いので、厳格に保秘を徹底することとする。

(3)実施機関

  事件化まで概ね3か月をめどとする。

(4)関係機関との協力

  保秘に十分留意しつつ、大蔵省、国税庁等との協力体制の確立に努める。

 

警察庁「文書流出」に関する国会質疑

【参議院・日米防衛協力のための指針に関する特別委員会】平成11(1999)年5月14日

――質問 福島瑞穂君 社民党の福島瑞穂です。まず最初に、月刊「世界」6月号に載せられた論文、「国内の有事体制が準備されている」ということについてお聞きをしたいと思います。この雑誌の中に出ている警察の中の内部文書というものがあります。ここに、私は手元に持っておりますが、平成5年12月1日秘密文書となっております「北朝鮮への不正送金対策推進計画」。

(文書引用略)

 捜査をするではなく、明確に送金を阻止するために事件化を図るという計画書です。これには推進体制も書かれております。こういう内部文書はあるのでしょうか。

――答弁 政府委員(関口祐弘警察庁長官) 委員御質問の「世界」の記事でございますが、それを私も読んでおります。

 中身につきましての御質問でございますけれども、一般論として申し上げますが、警察では犯罪捜査の責務を果たす上で必要な活動を行っているところでございまして、そのための文書を作成することもあるわけでありますけれども、捜査上の秘密の保持の観点から、個別の文書につきましてはその存否を含めましてお答えを差し控えさせていただきます。

――質問(福島氏) これは、具体的な事件の捜査ではなく、文書で事件化を図る、事件化を積極的に図っていく、意図的に事件にしていくということがはっきり書いてあるわけです。こういう内部文書があるかないかだけについて端的に答えてください。

――答弁(関口氏) ただいまもお答え申し上げたとおりでございますけれども、私ども仕事を進めていく上で全国の会議をし、そしてそこで、口頭で指示をいたしましたり、あるいは文書でするような場面も多いわけでございますけれども、ただいま御答弁申し上げたとおり、捜査上、個別文書につきましてはその存否を含めましてお答えすることを差し控えさせていただきます。

――質問(福島氏) 重要な文書で、この存否についてもお答えできないということですか。これは通常の捜査ではなく、警察がはっきり一定の意図を持って事件化を図るとしている文書です。これは私は本当に非常にショックを受けました。というのは、これはちょうどノドンが発射された後のことです。私たちは、イラクや北朝鮮の情勢についてはやはり大変疎い状況があると思います。そういう中で、こういうふうに事件化を図る、極端に言えば、大げさに言えば盧溝橋事件のようなこともあり得るわけです。だって、これには事件化を図ると書いてあるわけですから、実際ある種の事件が、犯罪行為があり、それに対してどう対処するかということではないのです。

 ですから、不審船の問題なども問題になっておりますが、こういう文書を見ますと、例えばある犯罪行為があって捜査を開始したのか、警察がもともと一定の意図のもとに事件化を図ったのかということが全くわからないわけです。それが有事法制の一つ、情報操作あるいは事件がフレームアップされることもあり得るという問題だと思います。これについてお答えしていただけないということをきょう確認して、こちらもまた追及していきたいと思います。

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