朝鮮人民軍 海外戦記/中東編(6)

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北朝鮮は、1973年5月17日に世界保健機関(WTO)に加盟。ニューヨークの国連本部とジュネーブの国連事務局に常駐オブザーバー代表部を設置する資格を得て、国連総会に参加する第一歩を踏み出した。

同年9月5日、ニューヨークの国連本部に北朝鮮の常駐オブザーバー代表部が開設され、10月1日には国連総会に北朝鮮を招待することも決定された。北朝鮮は、やっと国連で韓国と渡り合える立場を構築したのである。北朝鮮がエジプトなどの第三世界の国々をどれだけ味方につけたかは、国連で分かることであった。

【連載-5-】北朝鮮空軍「エジプト極秘派兵」はイスラエルに見破られていた

第4次中東戦争が勃発したのはその直後であった。

イスラエルの反撃

10月6日にエジプトとシリアの連合軍がイスラエル軍を急襲した。戦争初期には敗北を喫していたイスラエルは、やがて反撃を始めた。

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第4次中東戦争で戦った北朝鮮とエジプトの空軍パイロットたち
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イスラエルが反撃に出た後、金日成はアラブ諸国に対する支持を前面に出した。10月17日、彼は平壌駐在のエジプト臨時大使とシリア大使に会い、北朝鮮政府が軍事も含めた支援をエジプトとシリアに送ることを決定したと伝えた。

さらに10月18日、アラブ諸国支持を表明したメッセージをアラブ16ヶ国の最高指導者とアラブ連盟事務局長に送った。その中には、国交がないサウジアラビアなども含まれていた。金日成は、エジプトとシリアへの軍事支援を宣伝することで、アラブ諸国全体との親善団結まで狙ったと考えられる。

金日成は、このメッセージの中でもエジプトへの空軍派兵については言及を避けた。しかし同10月18日、イスラエルと北朝鮮の空軍部隊が交戦したことを米国政府が発表し、参戦の事実は国際的に知られた。

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北朝鮮の空軍部隊は最初の戦闘で、イスラエル空軍の戦闘機F4を4機撃墜したという。実はシャーズィリーによると、第4次中東戦争が勃発する前にも北朝鮮のパイロットはイスラエル空軍と2、3回交戦したことがあったという。おそらく小競り合いレベルのものであろうが、北朝鮮のパイロットは戦争前からイスラエル空軍との実戦経験があったのである。

シリアにも派兵

戦況が進むと、シリア政府からもパイロット派兵の要請が届いた。朝鮮労働党中央委員会政治委員会はシリアとの親善団結を強めるため、パイロットを送ることを決定した。

シリアに派兵されるパイロットと10月23日に面談した金日成は、エジプト派兵と同様に、交戦まで情報漏洩を防ぐように命令した。さらに大量の物資もシリアに運ばれた。エジプトと同様、機密扱いの派兵であった。

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北朝鮮のパイロットは実際にシリアに派兵された。

しかし、それは停戦後であったはずである。1973年10月22日、国連安保理で現状での即時停戦を求める決議が採択され、エジプトは10月23日に決議を受諾。翌日にはシリアも受諾した。戦闘がまったくなくなったわけではないが、第4次中東戦争は停戦によって一旦の区切りがついた。

11月7日、金日成はエジプトにいるパイロットたちに祝電を送り、全員が無事であることを祝った。強力なイスラエル空軍と戦った北朝鮮のパイロットには、1人の犠牲者もいなかったのである。(つづく)

(宮本 悟 聖学院大学教授)

【連載:朝鮮人民軍 海外戦記】

中東編(7)
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宮本 悟(みやもと・さとる)

聖学院大学基礎総合教育部特任教授。1970年生まれ。1992年、同志社大学法学部卒。1999年、ソウル大学政治学科修士課程修了(政治学修士号)。2005年、神戸大学大学院法学研究科博士後期課程修了(博士号/政治学)。2006年から日本国際問題研究所研究員、2009年から聖学院大学総合研究所准教授などを経て、2014年から現職。